フルーツや野菜の摂取と2型糖尿病発症率:系統的レビューとメタアナリシス
Laura J Gray,
Jacqui Troughton,
Kamlesh Khunti,
Melanie J Davies
原題:Fruit and vegetable intake and incidence of type 2 diabetes mellitus: systematic review and meta-analysis
論文掲載:BMJ 2010 年 8 月 19 日 2010:341:c4229
2型糖尿病発症に対するフルーツや野菜の摂取自体の影響を調べるため、系統的レビューとメタアナリシスを行った研究です。
「フルーツ」、「野菜」、「フルーツと野菜」摂取の2型糖尿病の関連を調べる前向きコホート研究を行った6つの臨床研究のデータをまとめており、その内4つの試験については「緑色葉野菜」も「野菜」とは別に調べられています。より多くの「緑色葉野菜」を摂取した場合に、2型糖尿病リスクを14%低減する結果が得られしました(ハザード比 0.86:95%信頼区間 0.77-0.97)。
一方で、「フルーツ」、「野菜」、「フ ルーツと野菜」の摂取量を増やした場合では、顕著な相関はみられなかったようです。結論として、日常の「緑色葉野菜」摂取を増やすことで、2型糖尿病リスクを減らすことが出来るため、今後さらに研究されるべきでしょう。
(アブストラクト翻訳:熊谷新司)
この研究の前に知られていたこと (What is already known on this topic)
・ 2型糖尿病の患者数が世界的に増加していること
・ フルーツや野菜の摂取が循環器疾患やがんの予防に有益であるとされながらも、その摂取はイギリスを含め世界的に低いことこの研究によって得られた知見(What this study adds)
・ 緑色葉野菜の摂取増加と2型糖尿病の発症率低下が強く関連づけられた
・ 過去の研究成果は異質なものであり、このような栄養摂取の観察研究においては、適切な栄養バイオマーカーを研究に盛り込み、アンケート調査への依存度を低める必要が認められた。
本研究では緑色葉野菜を通常16g (0.2人分)のところ108g(1.35人分)を摂取した場合に2型糖尿病の発症リスクを14%低減することができると結論づけています。本研究では以下3つの点から、信頼性の高い研究成果と言えます。
1 系統的レビューを行い、客観性のある考察を行っています。検索から得られた3,446件の論文から客観的な指標に基づき、6つの論文に絞り込みメタアナリシスを行っています。
2 絞り込んだ6つの論文では9,665〜71,345人と被験者の規模が比較的大きく、かつ前向きコホート研究を対象としていて、摂取後長期(4.6〜23年)にわたっての観測がされた論文を参照しています。
3 メタアナリシスを行い、参照論文の結果を統計解析して統合しています。そのため、95% 信頼区間での優位な結論が導かれています。
一方で、以下3つの点から、この分野でさらに研究が積み重ねられることを期待したいと考えます。
1 14%のリスク低減の結果そのものがそれほど大きくないこと。
2 最終的にメタアナリシスの対象となったのは6件のみで、充分な数が確保されていないなかでの統計的解析となっていること。
3 「緑色葉野菜」の定義が原論文によってバラバラで、ほうれん草、ケール、レタス、中華、野菜、キャベツ、芽キャベツ、カリフラワー、パセリ、ディル、フェンネルなどがランダムに含まれていること。
2型糖尿病との因果関係としては、緑色葉野菜以外にも運動(Physical activity)などのその他の生活習慣要因(Lifestyle factors)との関係もあると考えられます。
さらに緑色葉野菜にも具体的にβカロテン、ビタミンC、ポリフェノール、マグネシウムなどのどのような栄養素が寄与しているかもわからない状況であり、慢性疾患の一次予防の有効性の評価の根拠として、バイオマーカーを慢性疾患リスク毎に明確にしていく必要があると考えられます。短期的なサイトカインの遺伝子発現が変化するなどの研究もされていてこの分野での更なる研究成果の発表が期待されます。※1
※1 食事研究の最新バイオマーカーの栄養学 静岡県立大学食品栄養科学部合田敏尚より引用
(JAMHAコメント:桂川直樹)
〔知っておきたい用語〕
1) 2型糖尿病: type 2 diabetes mellitus インスリン分泌低下と感受性低下の二つを原因とする糖尿病である。一般的に「生活習慣が悪かったので糖尿病になりました」と言う場合、この2型糖尿病を指す。これに対して1型糖尿病は膵臓のランゲルハンス島でインスリンを分泌しているβ細胞が破壊される病気である。その原因は主に自分の免疫細胞が自らの膵臓を攻撃するためと考えられている。
2) 系統的レビュー: systematic review 世界中のデータ(論文)をくまなく探して、内容をまとめる作業。該当しそうな文献をできるだけ網羅的に検索し、それらが最良の科学的根拠に基づいているかどうかを客観的・批判的に吟味するため、単一の調査、研究から得られる結論に比べて信頼性が高い。
3) メタアナリシス: meta-analysis 複数の科学的文献の結果を統計的に統合し、より信頼性の高い結果を求めること。統合のための統計的手法や統計解析そのもののことを示す場合もある。メタ分析とも呼ばれる。
4) 前向きコホート研究: prospective cohort study コホート研究とは、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を追跡して、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる研究方法。前向きというのは曝露から疾病の発生まで、観察が時間的に順を追って行われていること。とくに発症率が 低いものの場合には時間とコストがかかる。そのため、診療記録などをもとに時間的順序を逆転させて曝露と疾病発症との因果関係を考察する後ろ向きコホート研究(historical cohort study)が用いられる場合がある。
5) 95%信頼区間: 95% confidence interval
信頼区間とは統計学で母数がどのような数値の範囲にあるかを確率的に示す方法。コホート研究のエビデンスとして科学雑誌に論文を掲載する際にはP値に加えて95%信頼区間算出が必須と考えられている。
6)ハザード比: Hazard Ratioある治療を行った群で事象が起こる危険性を1として、もう一方の治療でどのくらいの危険性になるかを数字で見たもの。このケースでは0.86が14%のリスク低減となる。ハザード率と訳されることも多い。