2024.11.29

イチョウの豆知識

イチョウがメディカルハーブとして注目されるようになったのは近年のことですが
日本では古くから人々に愛され、全国に植林されてきました。
そんなイチョウを巡って、興味深い話がいくつもあります。

01.| 氷河期を生き延びた「生きた化石」

イチョウは「生きた化石」と呼ばれています。地球上にイチョウの仲間が繁栄したのが約1億5千万年前のジュラ紀で、そのうちイチョウだけが現存し、他の植物はすべて化石となっているためです。ジュラ紀といえば、恐竜が闊歩していた時代。その後、氷河期に入り、恐竜と共に絶滅したかに思われましたが、比較的暖かかった中国中部地域に残っていた種があり、これが現在あるイチョウの祖先と考えられています。日本に渡来したのは鎌倉時代と推測されています。

02.| ギンナンは食べ過ぎに注意

イチョウの種子であるギンナンはカリウムやビタミンB群が多く、タンパク質、脂質も豊富で栄養価が高い食品。古くから老化防止、強精、強壮、咳止めなどに有効とされてきました。ただし、ギンナンにはビタミンB₆の作用を妨げるメチルビリドキシンという物質が含まれており、食べ過ぎには注意が必要です。ビタミンB₆は神経の興奮を抑えるGABAの産生に必要なため、不足するとGABAが合成できなくなり、吐き気、下痢、震え、痙攣などの中毒症状が起こります。目安として大人で1日10個、子どもは多くても5個くらいまでがよいとされます。

03.| 建築素材としてのイチョウ

イチョウは建材としても優秀な樹木。木質が均一で柔らかく、加工性に優れて歪みが出にくい上、防虫効果や殺菌効果もあります。適度な弾力があり刃の当たりがよいので、まな板にも最適です。また、水分を豊富に含んでいて燃えにくいのも特徴。多くの寺社仏閣にイチョウの木があるのは、強い生命力を宿す神聖な木とみなされてきたことの他に、燃えにくい樹木を敷地内に植えることで、火災予防の願いも込められていたといわれます。

TOPICS | フランスで人気の「タナカン」とは?

 「イチョウ」という名前は一説によると、中国語の「鴨脚(ヤチャオ)=アヒルの足」からきているとか。確かに、2つに割れた扇形の葉は、アヒルの足形に似ています。英語名はGinkgoが一般的ですが、Maidenhair treeとも呼ばれています。maidenhairは「アジアンタム」の意味で、イチョウ の葉がアジアンタムの葉に似ていること からつけられたそうです。
 イチョウにまつわる名前でユニークなのが、フランスの「タナカン (Tanakan)」。実はこれはイチョウ葉エキスの商品名で、フランスではとても人気が高い薬です。フランスでイチョウ葉エキスが医薬品として開発された1974年、当時の日本の首相だった田中角栄氏にちなんで名づけられたといわれます。
 以来、主に東北地方で製造されたイチョウ葉エキスが原料として海外に輸出されてきました。特に福島県は最大の生産地でしたが、2011年の東日本大震災で壊滅状態に。日本産イチョウ葉エキスはたいへん貴重なものとなってしまいました。近年は日本でのサプリメント需要が年々大きくなっていますが、現在日本に流通しているイチョウ葉サプリメントの多くは中国産原料です。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第68号 2024年6月