エコロジカルガーデニングデザイン
HERB & LIFE
ハーブのある暮らしを楽しむ<夏>
Ecological gardening design
エコロジカルガーデニングデザイン
植物を育てる上で、土づくりと並んで重要なのが病害虫対策です。
ここでは、ハーブでよく見られる病害虫と、生態系を大切にするエコロジカルな栽培で
それらと共存するための管理方法について紹介します。
第13回
病害虫との共存
その3.ハーブでよく見る病害虫との共存方法1
question
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ラベンダーが一枝ずつ枯れていきますが、対策はありますか?
ゲッケイジュやミカンの葉が真っ黒で、モナルダやディルは真っ白になります。病気ですか?
クワの実が白くなったまま熟しません。原因と対策を教えてください。
シソ科のハーブがどれも絣がかかったように黄ばんでいます。何が原因でしょうか。
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エコロジカルな栽培では、自然生態系を大切にし、病害虫とも共存を図ります。今回は、ハーブ栽培する上で、よく見かける病害虫との共存方法について紹介します。
マルベリーと実菌核病(真菌)
マグワやヤマグワなどのマルベリー(桑)の果実が、黒熟せずに白いままカビが生えて乾燥するのがクワの実菌核病です。ちなみにマグワの学名はMorus alba L.で種小名に「白い」とついていますが、完熟でも白いのは西アジアの品種で、日本のマグワは黒熟します。実菌核病はカビが原因で、感染した果実はいずれ落果してそのまま越冬し、翌春のマルベリーの花の時期にキツネノワン(狐の椀)という狐色したお椀型のキノコになって現れます。このキノコが胞子を飛ばして花に感染し、再び発症するというのを何年も繰り返します。これを断ち切るには次の2つの方法が有効です。①罹病果をすべて回収する(下にシートなどを敷いて土壌で越冬させない)。②翌春土を厚くかけてキノコを露出させない。これらを組み合わせて数年繰り返すと効果はより高くなります。
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ラベンダーやローゼル、パッションフラワー、バジルのある品種などと道管病(真菌)
真正ラベンダー(ラワンドゥラ・アングスティフォリア)やラバンディン(ラワンドゥラ・インテルメディア)などのイングリッシュラベンダーや、ローゼル、パッションフラワー、バジルのある品種などで、土壌中の病原菌が根の傷口や裂けた茎の根元から入り込み、維管束の道管(水を運ぶ管)に棲みついて水の供給を断ってしまう道管病と呼ばれる土壌病害が見られます。道管病の原因にはハーブ類でよく見られるフザリウム属などの真菌の他、ナス科の青枯病菌であるラルストニア属といった細菌によるものもあります。ラベンダーでは5~6年経って木が大きくなって自重で裂けた時に、ローゼルでは台風などで倒れて地際から裂けた時に傷口から感染し、道管の詰まった枝先に水が行かずにその枝だけ枯れ、次々と感染して最終的には株が枯死します。枯れ出してからの有効な対策はなく、やがて、株全体が枯れてしまい、汚染土壌には菌が5~6年生き続けますので、そのあと新しい個体を植えても同じことが繰り返されます。積極的に土壌消毒する方法としては、土壌を焼くか、田んぼのように水を張ったまま1週間置いて窒息させるかです。プランターであれば可能ですが庭では難しいです。消極的方法としては、5~6年は罹病しないフレンチラベンダーなどの他の植物を植え、そのあとイングリッシュラベンダーに戻すというローテンションをすることです。予防としては、植え付け時に、底の穴をハンマーで叩いて大きくした素焼き鉢に、無菌の鹿沼土や赤玉土を用いて植えつけ、鉢に水がたまらないように鉢の上端よりも高く盛りつけ、それを地面よりも高く植えつけます。そうすることで、株元が無菌となって傷口からの菌の侵入を防げます。なお、枯死した枝の根元を切ったハサミで健全な枝を切ると感染を広げることになりますので、洗剤やアルコールで除菌します。
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モナルダやディルなどとうどん粉病(真菌)
モナルダ(別名:ベルガモット、タイマツバナ)やディルの葉が白くなっていたら、うどん粉病です。これらの植物は毎年夏になると必ずといっていいほど罹病します。また、うどん粉病は時に、イタリアンパセリやチャービル、ニンジンなどのセリ科、スペアミント、レモンバーム、ローズマリーなどのナス科、ジャーマン・カモミールなどのキク科ハーブでも発生します。ハーブ以外にも、キュウリやカボチャなどのウリ科や、トマト、ナスなどのナス科、ローズやイチゴなどのバラ科、エンドウ、スイートピーなどのマメ科、コスモスやキクなどのキク科などでよく見られ、1万種の被子植物で感染するともいわれています。うどん粉病の原因はオイディウムやオイディオプシス、スパエロテカ、ポドスパエラ、エリシペなど様々な属に分類される真菌類によるもので、モナルダはエリシペ属菌、ディルはオイディウム属菌によるものですので、菌と宿主の関係が決まっているため、モナルダのうどん粉病はディルには感染しません。対策としては、本誌前号(Vol.67. p.32-34)で紹介した化学農薬を使わない化学的管理が有効です。特に、ニンニクやトウガラシ、ネギ、ドクダミ、スギナなどのチンキと、酸性の酢もしくはアルカリ性の重曹か灰を組み合わせると効果がより高くなります。近年では、モナルダのうどん粉病抵抗性品種も売られています。
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ゲッケイジュやカンキツ類などとすす病(真菌)
すす病はカビが原因の病気ですが、葉にカビが生えているわけではなく、葉に着いているカイガラムシやアブラムシの排泄物(糖類)にカビが生えている状態です。したがって、葉は病気ではありませんので、手などで拭き取ると、カビの下からきれいな葉が顔を出します。放っておくと、光合成が妨げられますので、取り除くようにしましょう。すす病を未然に防ぐには、カイガラムシやアブラムシの対策をとる必要があります。すす病が発生していたら、布などで拭き取ることで、翌年はほとんど見られなくなります。黒くなっている部分でも古いものはカビの死骸です。
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手で拭くときれいな葉が現れる
ゲッケイジュやカンキツなどとカイガラムシ(昆虫)
カンキツやゲッケイジュの葉がすす病で真っ黒になっていたら、カイガラムシのいるサインです。カイガラムシはカメムシ目の昆虫で、白い綿毛にくるまれるワタカイガラムシやコナカイガラムシ、ハカマカイガラムシ、殻とワタの部分とからなるイセリア(ワタフキ)カイガラムシやヒモワタカイガラムシ、殻に覆われているルビーロウカイガラムシやヤノネカイガラムシなど、種類によって見た目は大きく異なります。これらはいずれも、アブラムシと同様、維管束からショ糖などの師管液(樹液)を吸汁し、糖類からなるベタベタした排泄物を出します。カイガラムシの排泄した糖類で、観葉植物の葉や、山野の低木、街路樹の下などがテカテカ、ベタベタに光っていることがあります。対策としては、成虫を削り取るか、幼虫の間に、本誌(Vol.66. p.30-32)で紹介した、物理的管理による病害虫対策のうちの、窒息による方法が有効で、特に油を塗るとよいでしょう。油は機械油でも食用油でも構いません。ひどい場合は、剪定して枝ごとさよならします。
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シソ科ハーブとヨコバイ(昆虫)
私は2014年の4月に東京都世田谷区のローズマリーで発見して以降、毎年、観察しています。2016年には千葉県農林総合研究センターから発生予察情報が出されました。最初はローズマリーだけでしたが、レモンバームやセージ、ミント、キャットニップ、タイム、マジョラムなど、多くのシソ科ハーブに被害が広がってきています。ヨコバイの幼虫と成虫が葉を吸汁することでその部分が黄変し、最初はダニ害に似たかすり状の吸汁痕ですが次第に拡大して葉全体が黄色くなります。葉を振り払うとかすかに白い何かが飛んだように見えますが、ルーペで葉を観察すると蝉のような昆虫が、ヨコバイの名の如く横に這って動くのがわかります。対策としては、本誌(Vol.66. p.30-32)で紹介した物理的管理による病害虫対策のうち、窒息による方法が有効です。
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様々なハーブとネマトーダ(センチュウ)
ネマトーダは和名を線虫といい、近年、尿中のガンのにおいを嗅ぎ分けるとして、がん検診に実用化されたことが話題となったのと同じ線形動物で、回虫やギョウチュウ、アニサキスなども仲間です。植物に害を及ぼすネマトーダは土壌中にいて、根にこぶを作るネコブセンチュウ、根にシスト(卵を抱えた雌の死骸)を作るシストセンチュウ、根に入り込んだ後が壊死斑となって肌荒れを起こすネグサレセンチュウなどがあります。ネコブセンチュウやシストセンチュウは生育を著しく抑制し、ネグサレセンチュウは根菜類の商品価値を低下させます。この他、土壌を介さないセンチュウとして、一般に松くい虫と呼ばれるマツノザイセンチュウがいます。これは、マツノマダラカミキリというカミキリムシによって媒介されるため、カミキリムシ対策が必要となります。土壌中のネマトーダに関しては、殺線虫物質を持つ対抗植物の混作や輪作が有効です。対抗植物としては、フレンチマリーゴールドやギニアグラス、クロタラリアなどが知られています。
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