日本のハーブ:エンジュとカイカ
エンジュの蕾は槐花(カイカ)として、止血薬として用いられている。カイカからルチンを抽出する実験で、黄色の結晶が取れた喜びは忘れられない。カイカは日本局外規格集に収載されている生薬である。
カイカはエンジュ Sophora japonica Linné (マメ科)の蕾である。性状はほぼ楕円体で、長さ3〜10mm、黄緑色〜黄褐色のがく及び淡黄色〜淡褐色の花冠からなり、がくは長さ3〜4mm、浅く5片に分裂し、花冠は5片からなる。ルーペ視するとき、雄ずいは10本で、その基部は合着する。雌ずいは1本で、短小である。本品はにおい及び味がほとんどない。確認試験はルチンの黄色いスポットを薄層クロマトグラフで認めることである。
1)エンジュの特徴
落葉高木で、樹高は5〜20mになる。葉は長さ15〜25cm、小葉は9〜15個、卵形から狭卵形、鋭頭又はやや鈍頭、深緑色、下面は圧毛があり、帯白色、長さ2.5〜4cm、幅12〜15mm、往々小形の小托葉がある。花序は長さ15〜30cm、短圧毛があり、花弁は2個の翼弁、1個の爪弁からなり(図解③参照)、長さ12〜15mm、黄白色。がくは長さ3〜4mm、圧毛あり、がくの歯は低平で、4角形縁辺に短毛密生する。莢は有柄、念珠状、長さ5〜8cm、やや肉質。
シダレエンジュは落葉した樹形が、竜の爪の形に剪定されるので、槐爪樹と呼ばれている。エンジュの樹は神木として祭られ、故宮の庭園や明の十三公の墓地の参道に植えられている。特にシダレエンジュは、龍爪樹として尊ばれている。
昭和薬科大学の薬用植物園にはエンジュとシダレエンジュが植えられている。30年間この木を管理している吉良さんは、剪定は、葉が落ちた冬に、伸びて分枝した枝が重ならないように一本に切り、素直に枝を伸ばすことで樹形を整えると述べられた。
2)中国のエンジュの生薬名
中国では、花を乾燥させたものは槐花(カイカ)、蕾を乾燥させたものが槐花米(カイカベイ)または槐米(カイベイ)という生薬で止血作用がある。莢を乾燥し生薬にしたものは槐角(カイカク)と称し、止血剤や高血圧に用いられる。花と蕾は6〜8月、果実は8〜9月に採集して天日乾燥して調製される。
中国薬典では、槐花はマメ科植物Sophora japonica L.の乾燥した花と蕾である。夏に花が咲くが蕾を収穫し、枝、茎、不純物を取り除き乾燥させる。前者は通称「槐花」、後者は通称「槐米」と呼ばれている。
1)槐花はしわくちゃに丸まった花弁が散在している。萼は釣鐘形、黄緑色、頂点5裂は浅く、花弁5枚は黄色または黄白色、1つは大きく、ほぼ丸みを帯び、頂点はわずかに凹んでおり、残りの4枚は長楕円形。 雄しべ10、そのうちの9つは基部で結合されており、花糸は細長い。雌しべは円筒形で湾曲している。本体は軽い。香りは僅か。味はやや苦い。
2)槐米は卵形または楕円形で、長さ2〜6mm、直径約2mm。萼の下部にはいくつかの縦縞がある。萼の上部は黄白色の未開花の花びらである。花柄は短い。本体は軽く、ねじると壊れる。香りは僅かで、味はやや苦い。
3)槐角(カイカク)はエンジュの成熟果実である。
4)その他の生薬:槐白皮はエンジュ樹皮または根の樹皮の師部。槐葉はエンジュの葉である。槐胶は樹脂がある。いずれも止血を目的に使われていた。
エンジュの学名は、Styphnolobium japonicum(L.)Schottを用いることもある。
エンジュは、街路樹に使われ、木部は内装材や家具、小物の材料に使われる。
[写真提供]
①④⑦⑧:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏
②③⑤⑥:昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第68号 2024年6月