植物たちが秘める健康力:〜日本人の長寿を支える“チャ(茶)の力”〜
“和食パワー”を支える食材として、おコメ、ダイズに続き、今回は、チャ(茶)を取り上げます。これは、ツバキ科の植物で、中国が原産地です。日本には、平安時代に、遣唐使によりもたらされました。学名は「カメリア シネンシス」で、「カメリア」は、ツバキ属であることを示し、ツバキをヨーロッパに紹介した宣教師、ゲオルグ・ジョセフ・カメルの名前にちなみ、「シネンシス」は「中国生まれ」を意味します。
お茶の成分は?
チャの葉っぱが原料となる緑茶には、ビタミンCやビタミンE、カリウムなどのミネラルの他に、テアニンやカテキンなどの物質が含まれています。
五月上旬に、市場に出まわる新茶は、「甘みがある」と表現されます。新茶には、チャの木が冬の寒さを乗り越えたあとに出てきた新芽が使われるからです。チャは、冬の寒さに耐えるために、葉っぱに甘みの成分であるテアニンを多く増やしています。テアニンを増やせば、葉っぱが凍りにくくなるのです。
この“しくみ”は、砂糖で身近に理解できます。砂糖を溶かしていない水と、砂糖を溶かした砂糖水とで、どちらが凍りにくいかを考えればいいのです。砂糖水のほうが凍りにくく、また、溶けている砂糖の量が多くなれば多くなるほど、ますます凍りにくくなります。この“しくみ”を身につけているチャは、冬の寒さで凍らないようにテアニンを増やすので、新茶に使われる新芽には、テアニンが多く含まれるのです。
テアニンは、私たちにリラックス効果をもたらし、ストレスを軽減させるのに働きます。新茶を飲めば、“ホッ”とする気持ちになるのは、テアニンの効果といえます。
また、テアニンは、神経細胞の保護に働くことが知られています。動物実験で、脳梗塞による神経細胞の死を抑えることが確認されており、人間の場合でも、同じ効果が期待されます。
カテキンの効果とは?
新茶のあとに出まわる二番茶、三番茶には、渋みや苦みがあります。これらの葉っぱが摘み取られる、5月下旬以降には、太陽の光が強く、紫外線が強くなっています。また、暖かくなって、虫が活動しています。そのため、チャの葉は、紫外線の害を防ぐ抗酸化物質であり、渋みや苦みで虫に食べられることから身体を守るカテキンの量を増やしているのです。
カテキンには、強い殺菌作用があります。そのため、昔、朝にお茶を飲むのを忘れて旅に出たら、「三里進んでいても、戻って飲め」といわれました。お茶のカテキンには、旅先の見知らぬ土地で、水や食べものにあたるのを防ぐ効果が知られていたのです。
「カテキンには、ガンの予防効果がある」との研究結果があります。2008年、京都大学の研究チームが、「カテキンの一種であるエピガロカテキンガレートが、ガンの増殖を約10分の1に抑えた」と発表しています。また、同じ年、岐阜大学の研究者らが、「カテキンを含む錠剤を飲み続けると、大腸ポリープの再発が抑えられる」ことを報告しています。
2014年、金沢大学の研究チームが、認知機能が正常な人を対象に、緑茶を飲む頻度と、5年後の認知機能低下との関連を調べました。その結果、認知機能が低下するリスクが、緑茶を全く飲まないグループと比べて、緑茶を週に1〜6回飲むグループでは約1/2に、毎日1杯以上飲むグループでは約1/3に減少していることが見出されました。この効果は、主にカテキンによるものと考えられます。
この結果を裏づけるように、動物実験で、エピガロカテキンガレートがアルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβの凝集を抑制することが明らかになっています。
一日に何杯、飲めばいいのか?
「お茶が健康によいのなら、一日に、何杯ぐらい飲めばいいのか」との疑問が生まれます。この疑問については、2015年、国立がん研究センターが、研究結果を発表しています。
日本全国の11地域の健常な40〜69歳の男女、約9万人を対象にして、約20年間にわたって追跡して調べたものです。対象者を全国の11地域に散らばらして調査するのは、地域に独特な気候や食生活などの影響が結果に反映しないように配慮されているのです。
調査対象の人にアンケートを行い、お茶を1日に、どのくらい飲むかによって、5つのグループに分けました。「ほとんどお茶を飲まない」、「1日に1杯未満」、「毎日1〜2杯」、「毎日3〜4杯」、「毎日5杯以上飲む」というグループでした。
その結果、お茶を多く飲むにつれて、死亡のリスクがだんだんと下がりました。1日1杯未満の人の死亡リスクを1とすると、1日5杯以上の人の死亡リスクは、男性では、0.87、女性では、0.83と低くなりました。
そのため、「お茶は一日5杯以上飲めばいい」ということになります。ただ、この研究では、5杯以上何杯飲めばいいのかは、定かにされていません。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第68号 2024年6月