ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学:聖ヒルデガルト療法のキーワードとレシピ 最新研究
春、イースター(復活祭)10日前にヒルデガルト療法メニューのあるオーガニックホテルやクアハウス、治療院などで春季断食プログラムが開かれます。カトリック中央協議会によると「大斎:1日に1回だけの十分な食事とそのほかに朝ともう1回わずかな食事をとることができ、満18歳以上満60歳未満の信者が守ります。小斎:肉類を食べないことですが、各自の判断で償いの他の形式、とくに愛徳のわざ、信心業、節制のわざの実行をもって代えることができ、満14歳以上の信者が守ります(大斎も小斎も、病気や妊娠などの理由がある人は免除されます)」と。カトリック信者の間では、このように摂食する時期。ヒルデガルト療法でも、身体と心・魂の「中庸」バランスを取り戻すために、摂食・断食を実行します。
私が参加したオンラインプログラムやクアホテルでは、ハーブティーやスペルトコーヒーは飲み放題。昼食は、新鮮なフルーツとドライフルーツ、野菜のスープ、スペルト小麦のおかゆはフリーでしたので、断食という感じはしませんでしたが、現地ドイツの方は、とても辛そうで、気分転換にクアパークで泳いだり、散歩やヨガ、ヒルデガルト音楽のレッスンに参加したりしていました。オンラインですと、個人的に相談に乗ってくれます。断食あけ、ヒルデガルトプレートとスペルト小麦のビールをおいしそうに召し上がっていました。ドイツ料理はポテトと豚肉というイメージだと思いますが、鶏肉や羊肉、魚とスペルト小麦を使ったメニューはとてもおいしいです。ヨーロッパはイースターにラムを食べる習慣があると。聖ヒルデガルトも春と夏に食べなさいと書き残しています。今年も、ヒルデガルトの会にお招きいただき、シナモン・ガランガル・ナツメグ・クローブのスパイスワインを使ったチキンのガランガル煮込み、芽キャベツ・菜の花・かぶの野菜スープ、ハーブスフレオムレツ、赤キャベツとカレンデュラのザワークラフト、よもぎの天然酵母パン、シナモン・ナツメグのスパイス入りのイースターケーキ(シムネルケーキ)をいただいてきました。季節の祭事に合わせ、旬の食材で取り入れていただけると嬉しいです。ご質問で「なぜ、聖ヒルデガルトは予言者といわれたのか?予言があるのでしょうか」というものがありましたが、彼女の遺産にある古文書や音楽・手紙には神の啓示がありますが、未来の事を明示した文章は私が訳した限りではまだないように思います。
『ビンゲンのヒルデガルト:一女子修道院長の生涯と作品』1996年 上條敏子先生の論文(*次ページ記載のURL、または二次元コードより参照可)に「修道院長エーベルバッハのゲベノは1220年ヒルデガルトによる預言の選集を編み、非常に読まれた。そのため預言者ヒルデガルトの名前は後代まで残ることになる」と。
また、「ヒルデガルト療法の解釈がわかりにくい」というご質問について。キーワードは、中庸(バランス)と節制・緑の力。彼女の治療というのは「魂を見て、共鳴する」こと。社会の不安、異端といわれたカタリ派でさえ、それは「体液の異常」であり、治すことができるとあります。ホリステッィク医療の考えともいえるでしょう。対症療法のようにこの病気にはこれというレシピが多岐にわたっているのは、彼女が患者の魂を見、原因を探り、善くないところをなくすのでなく、活性化させるものを与えてバランスをとるということではないでしょうか。医者であって患者、自分をも世界をも治療しなければならないという使命を感じます。
古代自然療法の4元素・4体液説を基にしながらも彼女独自の療法は、波動による共鳴の癒しだと。彼女には見えていた自然物から出る波動と、人の病んでる部位の波動が共鳴し、自然治癒の力を働くということを自分のセラピールームで体感し、実践し書き残しています。ハーブの性として「温・冷・乾・湿」→「火・空気・水・土」、人の体液論として「火は乾いた粘液を、空気は湿った粘液を、水は泡立つ粘液を、土は生ぬるい粘液を生み出し身体に現れる」と考えます。血・尿・便・目の色などの状態を情報として心身状態を把握し、「啓示に導かれて」病んだ身体とハーブの響き合いを聞きとり、選びとっていたのでしょう。
『疫病の精神史』(竹下節子著 筑摩書房 2021年p.81)に「ヒルデガルトは、『人間の心は体に宿り、魂は心に宿る』という心身相関的な考えに霊的な次元を加え、健康と霊性を結びつけた。魂のうちには彼女が『緑気』と呼んだ霊的なエネルギーが流れているという思想は、現代のバイオ・エネルギーや『気』の考えに非常に近い。ヒルデガルト医学は、漢方の薬学や、インドのアーユルヴェーダの薬学を支える思想とも矛盾しない」と。
ドイツ、そしてアメリカのヒルデガルト研究のサイトをご紹介します。
また、BBCのラジオ放送でも今年の国際女性デーに知っておくべき10人の女性作曲家に聖ヒルデガルトが選ばれています。
日本でも、『歴史や物語から楽しむ あたらしい植物療法の教科書』(中村姿乃著 翔泳社 2024年)に、植物療法における「重要人物26人」に紹介されています。『アロマテラピー大全集』(佐々木薫著 主婦の友社 2024年)コラム修道女ヒルデガルトと僧院医学にも。
感謝と共に。皆様のご健勝ご加護を祈ります。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第68号 2024年6月