エコロジカルガーデニングデザイン
HERB & LIFE
ハーブのある暮らしを楽しむ<春>
Ecological gardening design
エコロジカルガーデニングデザイン
土づくりと並んで栽培する上で重要なのが病害虫対策です。
ここでは、生態系を大切にするエコロジカルな栽培における病害虫と共存するための管理方法のうち、
化学的管理と生物的管理についての基本と実際を紹介します。
第12回
病害虫との共存
その2.化学的管理と生物的管理
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ハーブを使った殺虫剤を作ることはできますか?
病害虫対策で一緒に植えるとよい植物はありますか?
病害虫の天敵にはどのようなものがありますか?
生物農薬という言葉を耳にしましたが、どういうものですか?
エコロジカルな栽培では、自然生態系を大切にし、病害虫とも共存を図ります。今回は、共存を図る上での化学的管理と生物的管理について紹介します。
化学的管理
ここでいう化学的管理とは、化学農薬のような石油から化学合成された化学物質ではなく、生物由来の天然化学物質を利用した管理です。酸・アルカリや、殺菌・殺虫・忌避成分など植物の二次代謝産物を利用し、ほかの生物への影響や環境負荷のなるべく少ない安心・安全な材料を用います(表1)。
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(1)酸・アルカリ
病害虫の多くが酸やアルカリに弱いため、これらの資材で病害虫の密度を下げることができます。酸性資材には酢があり、これにニンニクやトウガラシを加えたビネガーを作っておくと、さらに高い効果が期待できます。アルカリ性のものには重曹や灰があります。重曹には鉱物から得られる天然重曹と化学合成される重曹とがあります。灰としては草木灰や線香、お香などの灰が利用できます。
(2)植物の二次代謝産物
二次代謝産物には水溶性のものと脂溶性のものがあります。ドクダミやコーヒーなどの水溶性成分は、水で煮出して煎剤としたり、酢に漬けたりします。精油などの脂溶性成分は、ホワイトリカーなどで抽出してチンキを作ります。
植物の二次代謝産物のうち、アルカロイドやイソプレノイド、含硫化合物などの多く成分は、病害虫から身を守るためのものです。特にトウガラシのカプサイシンやニンニクのアリシンなどに高い殺菌・忌避効果があります。しかし、二次代謝産物と病害虫との関係は複雑で効くもの、効かないものがあり、いろいろな種類の植物をミックスしてさまざまな有効成分を抽出して利用するのがよいでしょう。
アセビなどの有毒植物のアルカロイドを煮出す方法もあり、高い効果を得ていますが、人にも有毒なのでおすすめしません。米ぬかや焼き肉のたれなど、さまざまな対策がネットなどで紹介されていますので、いろいろ試したり、化学的管理と物理的管理を組み合わせたりするとよいでしょう。
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生物的管理
生物的管理では、生物多様性を維持して豊かな生態系をつくることが大切になります。そのためには混植・混生して、植物の多様性を保ち、そこにくる益虫や害虫、ただの虫といった虫などの小動物や微生物などの種類を多くすることが求められます。病害虫対策としては特に土着天敵の誘引がカギになります。
(1)混植・混生
生物多様性を維持するには、モノカルチャー(単一栽培)をやめて、混植・混生することが基本になります。勝手に生えてくる雑草を有効活用するのがおすすめですが、イネ科などの単一の雑草でモノカルチャー化してしまっては意味がありませんので、雑草も多様性を管理する必要があります。
(2)生物農薬
生物農薬とは、病害虫を捕食、駆除する生物そのものを指します。有機農業のため、化学農薬に変わる新しい農薬として、生物農薬が開発されています(表2)。害虫のハダニを食べる肉食性のカブリダニなどの天敵がボトルに入れられて売られています。生物農薬の中には、海外から輸入されている生物もあります。
(3)土着天敵の誘引
土着天敵とは、身近に棲んでいる天敵のことです。生物農薬を買わずとも、近くに棲んでいる天敵を誘引する方法があります。エコロジカルな栽培では、生態系を大切にするため、生物農薬よりも、土着天敵の活用が大切になります。土着天敵を誘引するには、その棲み処を作ることが大切です。土着天敵の棲み処として、インセクタリープランツとインセクトホテルを紹介します。
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①インセクタリープランツ/インセクタリープランツ(insectary plants)とは、土着天敵を誘引して温存する植物です。天敵を温存するということは、天敵のエサになる害虫がたくさん棲みつくということで、害虫のよくつく植物が用いられます。バンカープランツ(banker plants)も同義語ですが、バンカープランツは生物農薬を散布する際に植えつける植物のみを指し、言葉を分けることが多いです。
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②インセクトホテル/インセクトホテル(insect hotel)はインセクトハウス(insect house)、バグホテル(bug hotel)などとも呼ばれ、天敵や訪花昆虫をはじめとする多くの虫の避難場所、越冬場所になっており、生物多様性を維持する上での大きな役割を担っています。虫の種類によって穴の形状が変わります。作る場合には、合板や接着剤、ペンキ、ニスなどの化学物質を使用するとシックハウスとなりますので避けます。古くなると虫にとっての病原性微生物も棲みつきますので、2年経ったら中身を取り替えます。
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初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第67号 2024年3月