第1弾 健康的で持続可能な食環境とは

厚生労働省は、「日本から、食環境の新たな次元を切り拓く。」として、「食環境はもっとよくなる。しかし、個々の業種、企業、団体だけの取り組みでは、限界がある。今こそ産学官で力を結集し、大きなムーブメントを生み出していく。誰一人取り残さない食環境づくりの日本モデルを、世界に発信、提案していく。日本、そして世界を、健康寿命の延伸を通じ、活力ある持続可能な社会にする。」ことを基本理念とし、国民の食生活の改善に取り組むために、2022年3月「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」という産学官等の連携体制が設置されました。そこでは、日本が注力して取り組むべき主な栄養課題として、「食塩(ナトリウム)の過剰摂取」、「若年女性のやせ」、及び「経済格差に伴う栄養格差」が挙げられています。JAMHAでは、これらの課題に対するメディカルハーブの役割は大きいとの認識から、メディカルハーブを利用したこれらの課題解決に取り組むべく、食環境戦略イニシアチブへ参画することにいたしました。本号から数回にわたって、課題解決に向けた特集をいたします。第1弾では食環境からの健康被害と環境への影響についてお伝えします。
メディカルハーブの役割
メディカルハーブは古代から人々の健康を支えてきた天然の薬で、人々は様々な方法で生活に活かしてきました。メディカルハーブはたくさんの機能性成分を含んでおり、免疫システムを強化して病気のリスクを軽減し、日々の食事に加えることで、料理の風味を向上させ、おいしさを増すことができます。ハーブを栽培する際、エコロジカルな方法をとることで、環境への負荷を軽減することができ、自給自足的な園芸を通して健康を増進することもできます。このように、メディカルハーブは健康的な食生活と持続可能な地球環境の両方に貢献できることから、JAMHAでは、メディカルハーブを食生活の中に積極的に取り入れ、健康を維持し、自然環境、地球を守ることにつながる活動を行っており、厚生労働省の食環境の課題にも取り組めると考えています。
自然に健康になるための持続可能な食環境
国際的なデータベース(Human Mortality Database)の推計では、2007年に生まれた日本の子どもの半数が107歳より長く生きると見積もられています。まさに「人生100年時代」の到来です。平均寿命が世界の中でもトップクラスの日本ですが、「平均寿命」と、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間である「健康寿命」との差が人生の10%以上と長い期間になることが問題視されています。「健康寿命」を延ばし、人生を豊かに、人生の質を向上させるために、「食環境」を意識してみましょう。食環境とは、食べ物の生産、加工、流通、消費過程を指します。この食環境は、私たちの健康や環境に大きな影響を与えています。
1.食環境が私たちの健康に与える影響
●ファストフードや加工食品、清涼飲料などでの、高カロリー、高脂肪、高糖質の多量摂取、継続摂取:肥満や糖尿病のリスクが高まり、腸内環境が悪化して免疫機能が低下する
●飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を多く含む食品の多量摂取、継続摂取:動脈硬化のリスクが高まる
●塩分の多量摂取、継続摂取:胃がんや、血圧の上昇による心臓病・脳卒中のリスクが高まる
●保存、加工肉の多量摂取、継続摂取:大腸がんのリスクが高まる
●果物や野菜を十分に摂取し、バランスのよい食事を摂る:大腸がんのリスクが低下し、免疫機能が向上して感染症にかかりにくくなる
●新鮮な旬の魚からDHAを取り入れる:認知症のリスクが低下する
●カルシウムやビタミンA、B2、B12、良質のタンパク質を含んでいる牛乳や乳製品や豆類の摂取:量が多いほど認知機能低下リスクが低下する
●食環境の悪化:筋力低下に伴い、フレイル(虚弱)が進行する。フレイルとは、加齢に伴って心身の機能が低下した状態のことで、フレイル予防で、要介護状態になることを防ぐ
2.食環境が地球環境に与える影響
食環境が地球環境に与える影響は大きく、生産、加工、流通、消費のそれぞれでの対策が求められます。これらは、最終的には消費行動によって変えることができます。
●生産:地球環境に配慮した食料生産の拡大/食環境のうち、食料の生産環境は地球環境に大きく影響します。地球環境に負荷をかけないエコロジカルな生産の拡大が大切になります。同時に、地球環境に負荷をかけないエコロジカルに生産された農産物を購入する消費行動は、地球環境に負荷をかけない生産者の支援となり、そのような生産者を増やすことにつながり、地球環境を回復する間接的な手段となります。農林水産省の第4次食育推進基本計画では「環境に配慮した農林水産物・食品を選ぶ国民を増やす」ことが新たに目標として追加されています。企業などでは、二酸化炭素削減を実現している生産者から削減した分の二酸化炭素を買い取って支援するカーボンクレジットも進んでいます。
●加工:化学物質の多用や大規模加工からの脱却/食品添加物の多い食品ほど、地球環境に負荷をかけていることになります。手作りが理想ですが、購入する際には、添加物の少ない昔ながらの方法で小規模加工されているものを選びたいものです。
●流通:国産、地域産の消費拡大/輸送による二酸化炭素削減のためにも、国産や地域の食品、特に農産物の消費拡大が求められます。
●消費:エシカル消費の拡大と食品ロスの削減/生産・加工・流通・消費の食環境において地球環境に負荷をかけていないものを選択するなどのエシカル消費の拡大が求められます。そのためには有機農産物を選んだり、「冬のサラダは温室で加温栽培されるトマト、キュウリではなく、無加温のコマツナ、ホウレンソウにする」

など、旬の食材を求めたりすることも大切です。また、食品ロスの問題も大きく、大量の食べ物が無駄になるだけでなく、環境の悪化や将来的な人口増加による食料危機にも適切に対応できない恐れがあります。日本の食品ロスの量は、2019年度で570万トンと、1人当たりお茶碗1杯分のご飯を毎日捨てていることになります。内訳は、事業系309万トン、家庭系261万トンであり、家庭での取り組みが重要です。
以上のことを踏まえ、食環境を改善するためには、以下のことを心がけてみましょう。
*有機農産物や旬の食材、地産地消など、地球環境に負荷をかけていないものを選ぶ
*加工食品や添加物の多い食品を避ける
*大量摂取や継続摂取を避け、少量多品目を
季節ごとに摂取する
*外食を控えて自炊をする
*食品ロスを減らす
食環境が整うことで、健康が維持され、精神的に安定し、人との交流が増え、社会的に良好な状態を保つことができます。一人ひとりが食環境について意識し、行動する、意識改革と行動変容こそが毎日の健康へとつながる第一歩です。
次回は、元気に活躍し続けられる社会、安心して暮らせる社会に向けて、具体的な課題と、その解決のためのメディカルハーブの活用について考えていきたいと思います。(文:佐藤 香・木村 正典)
[参考]
・厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic
・農林水産省 令和3年食育白書「食と環境の調和」https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/wpaper/r03_minna/html/part3.html
・公益財団法人長寿科学振興財団 健康寿命ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net
・国立研究開発法人国立長寿医療研究センター老化疫学研究部https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/index.html

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第67号 2024年3月