2024.12.11

イブニングプリムローズオイルの炎症性疾患および子宮頸管熟化への有効性

学術委員

河野加奈恵

イブニングプリムローズ(アカバナ科 Oenothera biennis)の種子から抽出されるイブニングプリムローズオイル(EPO)は、リノール酸とγ-リノレン酸(GLA)を豊富に含む。GLAは抗炎症物質であるプロスタグランジンE1(PGE1)の前駆体として機能し、アラキドン酸(AA)の代謝を阻害して炎症性メディエーター(IL-1β、IL-6、TNF-α)を低下させる。その優れた抗炎症作用が注目され、これまで多くの炎症性疾患に対するEPOの効果を評価する臨床試験が行われている。

2024年に発表された最新のシステマティックレビューでは、様々な炎症性疾患におけるEPOの有効性が精査されている 1)。対象とされた臨床試験44件のうち、41件は経口カプセル、3件は局所製剤を使用しており、44件中28件で有意な効果が確認された。

効果が確認された疾患としては、関節リウマチ(RA)、アトピー性湿疹(AE)、および乳房痛が挙げられる。RAにおいては5件の試験中3件で有効性が示された。AEでは11件中9件の試験で症状の改善が確認され、補助的な治療法として有用とされている。乳房痛では5件中4件で有意な改善が報告されている。

また、糖尿病(DM)、高コレステロール血症、更年期のホットフラッシュ、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、尋常性ざ瘡、および多発性硬化症(MS)でも有望な結果が得られている。DMでは神経障害や血管合併症のリスク軽減が確認され、高コレステロール血症ではLDLの低下が報告されている。ホットフラッシュでは6週間の試験で症状の緩和が見られ、PCOSではビタミンDとの併用により有意な改善が示唆された。さらに、9か月の試験で尋常性ざ瘡の症状が改善し、MSでは65人を対象とした6か月の試験で有意な効果が確認されている。

一方、慢性手湿疹、乾癬性関節炎、喘息、B型肝炎、コンタクトレンズ関連ドライアイ、および妊娠高血圧症候群などでは効果が認められなかった。

また、EPOには子宮頸管を柔らかくする子宮頸管熟化作用があるとされ、分娩誘発や婦人科手術前に使用する子宮頸管熟化剤の代用としての有効性も注目されている。

2021年に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは9つの臨床研究を対象に分娩時におけるEPOの子宮頸管熟促進作用に関して評価した 2)。その結果、EPOは子宮頸管の成熟度を測るビショップスコアの向上、帝王切開率の低下、分娩第1期および第2期の時間短縮に効果がある可能性が示された。一方で、出生体重やオキシトシン誘発頻度には効果が確認されなかった。合計652名の患者を対象に行われた5つの研究を評価した2023年発表の別のシステマティックレビューとメタアナリシスにおいても、EPOの経口投与および膣内投与のいずれもビショップスコアによる子宮頸管熟化の効果が認められた  3)。また、5分後のアプガースコア(新生児の出生直後の生命状態を評価するためのスコアリングシステム)とEPO投与から出産までの時間に有意な差があることも確認された。

婦人科手術前の子宮頸部成熟を評価したRCTでは、EPOと子宮頸管熟成剤のミソプロストールの効果が比較された 4)。この研究では、子宮鏡検査および子宮内容除去術の候補者40名を対象に2000mgの膣内EPOまたは200μgの膣内ミソプロストールを投与した。その結果、EPO群ではヘガール子宮頸管拡張器が通過可能な子宮頸部サイズがミソプロストール群よりも有意に大きかった。また、EPO群は痛みの訴えが少なく、副作用においても両群に大きな差は認められなかった。いずれの群でも子宮または子宮頸部破裂は報告されなかった。

分娩の際の子宮頸管熟化を測る研究は異質性が高く、その結果を広く適用するにはさらなる研究が必要である。しかし、EPOが炎症性疾患だけでなく子宮頸管熟化にも活用できる可能性が示唆されており、薬剤に比べて安全な選択肢であるEPOの活用に関して今後の研究が期待される。

〔文献〕

Rahbar N., et al. (2023). Comparison of Misoprostol and Evening Primrose Oil on Cervical Preparation Before Gynecological Surgery. J Clin Pharmacol. 2023 Aug;63(8):880-885. doi: 10.1002/jcph.2253. Epub 2023 May 26.

Sharifi M., et al. (2024). The effect of Oenothera biennis (Evening primrose) oil on inflammatory diseases: a systematic review of clinical trials. BMC Complement Med Ther. 2024 Feb 15;24(1):89. doi: 10.1186/s12906-024-04378-5.

Hemmatzadeh S., et al.  (2021). Evening primrose oil for cervical ripening in term pregnancies: a systematic review and meta-analysis. J Complement Integr Med. 2021 Jul 14;20(2):328-337. doi: 10.1515/jcim-2020-0314. 

Shahinfar S., et al. (2023). The effect of evening primrose oil on cervical ripening and birth outcomes: A systematic review and meta-analysis. Heliyon. 2023 Feb 8;9(2):e13414. doi: 10.1016/j.heliyon.2023.e13414.