2025.1.15

P糖タンパク質基質であるタリノロールの経口薬物動態へのイチョウ葉エキスの影響

学術委員

辻恵子

メディカルハーブと医薬品の相互作用はまだ研究過程で、エビデンスのある研究報告を検索することは難しいのが現状である。その中でも、イチョウ葉(イチョウ科 Ginkgo biloba)は使用頻度が高いにもかかわらず、臨床研究の一次情報が少ないと考えられる。今回は、イチョウ葉と、抗不整脈薬でありP糖タンパク質基質である医薬品成分talinolol (タリノロール)との相互作用を検討した研究報告を紹介する。

今回の日的は、ヒトにおけるP糖タンパク質の基質薬であるタリノロールの経口薬物動態に対するイチョウ葉エキス(GBE)の単回および反復摂取の影響を調査することだった。

次に、方法として健康な男性ボランティア10名が3段階の連続試験に参加するために選ばれた。タリノロール100mgを単独で投与した後、イチョウ葉エキス(120mg)を単回経口投与、および14日間イチョウ葉エキスを繰り返し摂取した後(360mg/日)、0~24時間のタリノロール血漿濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定した。

得られた結果は、イチョウ葉エキスの単回経口投与は、夕リノロールの薬物動態に影響を与えなかったというものだった。イチョウ葉エキスの反復摂取により、タリノロール最大血漿濃度(C(max))は 36% (90% CI10~68、p=0.025)、濃度時間曲線下面積(AUC)(0-24)は 26%(90% CI11~43、p=0.008)、AUC(0-無限大)は22%(90%CI8~37、p=0.014)と、それぞれ増加したが、消失半減期およびC(max) までの時間に有意な変化はなかった。

結論としては、イチョウ葉エキス長期使用が、おそらくP糖タンパク質や他の薬物トランスポーターの活性に影響を与えることによって、ヒトにおけるタリノロールの体内動態に重大な影響を及ぼしたことを示唆している。

イチョウ葉エキスについて、現在日本では、1日通常摂取量240mg以下が推奨されている。この研究報告では、単回投与での有意な影響はないが、360mg/日の反復投与によりタリノロールの体内動態に重大な影響を及ぼしたと言及されている。これより、用法用量を守ること、安易な長期摂取を避ける必要はあると考えられる。また、タリノロール(抗不整脈薬)は、現在国内販売(2025/1現在)はないが、タリノロールと同様にP糖タンパク基質に影響があるとされる医薬品成分、例えばatorvastatin(アトルバスタチン:HMG-CoA還元酵素阻害剤)などとの併用は注意する必要があると推察されるであろう。

〔文献〕

Fan L, et al. Effects of Ginkgo biloba extract ingestion on the pharmacokinetics of talinolol in healthy Chinese volunteers. Ann Pharmacother. 2009 May;43(5):944-9. doi:

10.1345/aph. 1L656. Epub 2009 Apr 28.

参考)
P糖タンパク質基質:
P糖タンパク質とは、細胞膜上にある輸送タンパク質の一種で薬物の輸送に関与している。その基質とは、P糖タンパク質によって輸送される物質のことで、誘導する薬剤や阻害する薬剤があり、P糖タンパク質関連の薬剤耐性や薬物相互作用のカギとなる一因である。