ラベンダーは嗅覚と中枢扁桃体のGABA作動性ニューロンを介して睡眠を改善する
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睡眠補助や催眠としてのラベンダー(シソ科 Lavandula angustifolia)の活用は,古代ローマ人やギリシア人にまでさかのぼることができる。しかし,ラベンダーが睡眠時間や睡眠の質を高めるかどうか,また,どのように高めるかについての客観的な実験データはまだ不足しているといえるだろう。
今回紹介する研究では,マウスにおけるラベンダーの睡眠覚醒調節作用を明らかにし,その脳内標的および神経回路を明らかにすることを目的としたものである。
方法を以下に示す。
1)自由に動くことができるC57BL/6J マウスを対象に,ラベンダー精油とその含有成分の明期および暗期における吸入による睡眠覚醒効果を評価するために,匂い伝達システムと慢性睡眠ポリグラフ記録を組み合わせた。
2)関与する神経回路と標的を同定するために,neuroviral labeling,in situ ハイブリダイゼーション,薬理遺伝学を組み合わせて分析した。
3)DL-4-クロロフェニルアラニン投与マウスの不眠症モデルを確立し,ラベンダー精油の睡眠誘導能を検討した。
検討の結果、以下の結果を得た。
1)ラベンダー精油を25.0%の濃度で光期(不活性期)に吸入すると,非短時間眼球運動(NREM)睡眠への潜時が有意に短縮され,NREM睡眠の総量が増加し,皮質脳波徐波活動,特にデルタパワースペクトル密度が増強されることがわかった。
2)リナロール,d-リモネン,1,8-シネオール,酢酸リナリル,テルピネン-4-オールが,睡眠を促進する主な有効モノマー成分であることを確認した。
3)嗅覚経路を遮断する硫酸亜鉛の鼻腔注射,あるいは中枢扁桃体GABAニューロンの薬理遺伝学的サイレンシングのいずれによっても,ラベンダー精油は上記の睡眠促進効果を示さなかった。
4)ラベンダー精油はDL-4-クロロフェニルアラニンで治療した不眠症のマウスにおいて,短い潜時でNREM睡眠を再確立し,その効果は強力な鎮静剤ジアゼパムによって誘発されるものと同等であった。
これらの結果から,嗅覚経路および中枢扁桃体GABAニューロン標的を介したラベンダー精油およびその有効成分の量的および質的睡眠促進作用が示唆された。ラベンダー精油の催眠作用は,不眠症による睡眠障害を回復させるという特性が強いことが明らかとなった。この研究により、ラベンダーを用いた睡眠障害のアロマテラピーの神経生物学的な基本が確認されたといえよう。
〔文献〕Ren YL, Chu WW et.al., Lavender improves sleep through olfactory perception and GABAergic neurons of the central amygdala. J Ethnopharmacol. 2025 Jan 30;337(Pt 3):118942. doi: 10.1016/j.jep.2024.118942.
参考)in situハイブリダイゼーション:
組織や細胞において,特定のDNAやmRNAの分布や量を検出する方法