オーストラリアでのユーカリ活用法
はじめに
ユーカリは、フトモモ科ユーカリ属の植物の総称です。日本で「ユーカリ」といえば、ユーカリ・グロブルス(Eucalyptus globulus)もしくは、ユーカリ・ラディアタ(E. radiata)などが一般的に知られていますが、ユーカリ属は、実は非常に大きく、700とも900ともいわれる種や亜種を含みます。
ユーカリとその歴史
ユーカリは、傷や真菌感染症、発熱やかぜなどの呼吸器感染症の治療薬として、オーストラリア先住民アボリジニが伝統的に使用してきた歴史のあるハーブです。オーストラリアに入植したヨーロッパ人も、その薬効に気づき、1788年には、外科医のコンシデンが初めてユーカリの精油を作ったといわれています。1852年には、薬剤師のボシストと植物学者のミューラーによって、ユーカリ含有の精油商品が初めて商用として生産され、この精油に関する論文が19世紀末期には、『ランセット』をはじめとする医学雑誌に掲載されています。
オーストラリアで使われるユーカリの種
オーストラリアの医療分野では主に、ユーカリ・グロブルス(E. globulus)、レモンユーカリ(E. citriodora)、ブロードリーフペパーミントユーカリ(E. dives)、ユーカリ・ポリブラクテア(E. polybractea)、ユーカリ・オリダ(E. olida)、ユーカリ・シュタイゲリアナ(E. staigeriana)、ユーカリレッドアイアンバーク(E. sideroxylon)の7種が使用されます。
オーストラリアの固有種から世界へ
オーストラリア固有の植物であった歴史をもつユーカリですが、19世紀頃にヨーロッパに持ち込まれたとされており、今ではヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、アジア諸国など世界中でユーカリを見ることができます。ユーカリの用途は国ごとに異なり、インドでは、19世紀中頃から薪のために、ユーカリ・グロブルスのプランテーション栽培が開始され、近年では、オーガニック精油人気の高まりから、オーガニックのプランテーション栽培が増えてきているといいます。
ユーカリ色に染まるオーストラリアの森
シドニー中心部から内陸に車で2時間ほどに位置する世界遺産「ブルー・マウンテンズ」では、地球上で最も多様性に富んだユーカリの木々が生息しているとされます。「ブルー」という名称は、山々が青く見えることに由来し、その青い霧の正体は、多種多様に生息しているユーカリの精油が大気中に気化することで起こると考えられています。
オーストラリア現地の活用法
オージーにとって身近な植物であるユーカリは、現在でもさまざまな場面で利用されています。最も一般的なものは、精油としての利用です。前述の歴史の部分に登場した「ボシスト」の名を冠したブランドが存在し、スーパーや薬局で購入ができるほど流通しています。サイズも50mLから500mLまであり、大容量のサイズ展開からも高い利用頻度と需要がうかがえます。アロマセラピストや私のようなナチュロパスが使用する医療従事者向けブランドは別にあり、購入には有資格者であることなど条件が設けられているものもあります。
ユーカリの効能と剤型
ユーカリには、鎮咳、鼻詰まり除去、抗菌、抗炎症、鎮痛などの作用があります。これらの作用は、主成分である揮発油、中でも1,8-シネオールによるところが大きいため、オーストラリアでは、精油での使用が一般的です。茶剤は市販されているようですが、ナチュロパスとして今まで携わってきた中では、医療現場での茶剤利用は見かけたことがありません。
ナチュロパスのユーカリ活用法
かぜ、咳、鼻詰まりなどに対しユーカリを提案する場合が多いですが、どの場合でも基本的にチンキ剤を治療の軸とし、ユーカリ精油は、吸入法や胸部への軟膏の塗布などで補助的に活用します。チンキ剤で、エキナセアをはじめとした免疫調節系のハーブや、タイムやミルラなどの抗菌系のハーブなどから、クライアントの状態に合わせホリスティックに処方設計していきます。チンキ剤は、ハーブの選択肢が多く、ミリ単位での処方調整が可能なため、治療の軸とするナチュロパスが多いかと思います。
さまざまなユーカリ商品
精油以外にもユーカリを使用した商品があり、かぜのどが市販されています。特に、飴は種類が豊富で、マヌカハニーやエキナセア、ビタミンCや亜鉛など免疫への働きが知られている植物や栄養素とともに配合されているものが目立ちます。ほかにも、スキンケアやボディケア商品、歯磨き粉、バスソルトなど多岐にわたる商品でユーカリを使用した商品があり、どれもスーパーや薬局、街の健康食品店などで手軽に購入できます。
さいごに─ユーカリに+αブレンドするなら
ユーカリの香りが苦手な方や、アレンジを加えたい方には、同じフトモモ科のフラゴニアやハニーマートルなどとのブレンドもおすすめです。どちらもオーストラリア固有の精油で相性もよく、ディフューザーで焚くとオーストラリアの風を感じているような気分にさせてくれます。オーストラリアン精油の香りを嗅ぎながら、ブルー・マウンテンズに思いを馳せて存分にオーストラリア気分に浸るのもいいかもしれません。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第38号:2016年12月