ホーソンの植物学と栽培、人との関わり
分類・名称
ホーソン(hawthorn)は広義にはバラ科(Rosaceae)サンザシ属(Crataegus)の総称であり、狭義にはCrataegus monogyna Jacq.(以下、モノギナ)とC.laevigata(Poir.)DC.(以下、ラエウィガータ)の両方を、最狭義にはモノギナを指します。狭義のホーソンにはかつてC. oxyacanthaの学名が用いられました。リンネは別種のC. rhipidophylla Gand.にこの学名をつけたとされるほか、数名の学者がラエウィガータをはじめ数種にこの学名をつけたため混乱を生じました。モノギナとラエウィガータには類似した園芸品種が多く、これらの交雑種(C.×media Bechst.)もあって、あまり種の区別なく利用されてきました。英語では、両方ともEnglishhawthornと呼ぶほか、モノギナをcommon hawthornやsingle-seeded hawthorn、ラエウィガータをmidland hawthornなどと呼んで区別します。日本でも両方とも西洋山査子と呼ぶほか、モノギナを一蘂山査子、ラエウィガータを西洋山査子と呼び分ける場合があります。
同じバラ科のRhaphiolep isindicaをインディアンホーソン、R. indicavar. umbellata(シャリンバイ)を江戸ホーソン、Pyracanth acrenulataをヒマラヤンホーソンと呼びますが、サンザシ属ではありません。The Plant Listにはサンザシ属に380種が認められ、モノギナには164のシノニムが記載されています。
属名のCrataegus(クラタエグス)はギリシャ語で「力」「強さ」を意味するkratosと、「鋭い」を意味するakisもしくは「持つ」を意味するageinの合成語で「材の堅い」を意味します。種名のmonogynaは「1雌蕊の」を、laevigataは「無毛の」を意味します。ホーソン(hawthorn)はほかにhaw、hawberry、May tree、thornapple、whitethornなどと呼ばれ、果実もhaw(s)やhawberry(-ies)といいます。hawは古英語のhaga(垣根)が語源、thornは刺の意、Mayは開花期の5月、whiteは花色の白に由来します。
形態
サンザシ属の多くは5~15mの高木落葉樹で、サンザシのように1.5m程度の低木のものもあります。
1~3cmの刺のあるのが特徴ですが、C. crus-galliL.のように10cmの刺をもつものや刺のないC.crus-galli‘Inermis’もあります。葉は互生し、鋸歯や切れ込みがあります。花は通常4~25個の花が集まる集散花序で白い5枚の離弁を基本としますが、C. uniora Münchh.のように単生花のものや、八重咲き、桃花などもあります。雄しべは5の倍数で20本の種が多く、柱頭は1~5本で、種子数は柱頭数とほぼ一致します。花にはハエなどを呼んで受粉してもらうために腐敗臭のような香りがあります。果実は1cm前後が主で、ミサンザシなど3.5cmになるものもあります。果実色は赤が基本で、黄や黒もあります。
モノギナはラエウィガータよりも刺が多く、葉の切れ込みが深くて鋭いほか、柱頭と種子がラエウィガータではそれぞれ2つなのに対しモノギナでは1つです。サンザシとミサンザシ、オオサンザシとでは樹高、刺の有無、果実の大きさ、分布地域などが異なります。
栽培
亜寒帯から温帯まで分布し、寒さには強く、氷点下30°Cにも耐えます。繁殖は種子か挿し木、接ぎ木、取り木で行います。種子繁殖の場合、休眠があるので、採取した種子を湿らせた状態で冷蔵庫に4ヵ月程度置いて低温で休眠を打破してから播種するか、秋に播種して土を乾かさないようにし、春の発芽を待ちます。休眠は、発芽後の幼植物を寒い冬に遭遇させないよう、春に発芽するための防衛策です。挿し木の場合は若い枝を挿し穂とします。最初は苗木を購入するのがよいでしょう。5月頃開花し、8~10月に結実します。
人との関わりの歴史
ディオスコリデス(40-90)がemoxuakanthaと記した植物はホーソンであるとされていたこともあり、リンネ(1707-78)は学名をC. oxyacanthaとしましたが、パーキンソン(1567-1650)はディオスコリデスのoxuakanthaはピラカンサであるとしています。また、ガレノス(129-200)の記したoxyacanthusはピラカンサかナシ、セイヨウカリンであるとされています。17世紀までサンザシ属、ピラカンサ属、ナシ属、セイヨウカリン属の分類は曖昧であったようです。ジェラード(1545-1611/12)はhawthorn oxyacanthus、white thorne、hawthorn treeと呼びました。
古代ギリシャではホーソンは希望の象徴とされ、小枝が結婚式の祭殿に飾られていたとされています。
キリストの荊冠はホーソンと伝えられており、荊冠で飛び散ったキリストの血がホーソンを清めたとされ、中世では厄除けや、傷、はれを治すとされました。英国グラストンベリーのホーソン(モノギナ)は、キリストの血を受けたとする聖杯を持ったアリマタヤのヨセフが丘に挿した杖が根づいたものとされています。グラストンベリーソーン、ホーリーソーンと呼ばれ、旧暦のクリスマスと5月の年2回開花することから‘Biflora’の品種名もついています。イングランド内戦時(1642-51)には迷信の遺物とされ、切り倒され焼かれました。1951年に新たに植えられるも2010年と2012年に破壊者によって切り倒されました。
中世の英国では疫病のような匂いがするとされ、花を家の中に持ち込むと病気や死が続くとして嫌われました。これは腐敗臭のトリメチルアミンによると考えられます。一方でこの肉体的匂いから愛や結婚、妊娠、春の象徴とされ、婚礼の花冠などに用いられました。英国ではメーデーに、ホーソンの露に浸ると美顔になる、日の出時に玄関に小枝をかけると魔除けになる、前日からホーソンを吊るしておくと朝に将来の夫の来る方向を指し示してくれるなどが信じられてきました。カルペパー(1616-54)は、種子を粉にしてワインで飲むと腹痛や結石、むくみに、花の蒸留水は下痢に効くとしています。ケルケタヌス(1544-1609)は心臓に効果のあることを最初に言及し、アンチエイジングシロップを作りました。その後、アイルランドの医師グリーンは完熟果のチンキを心臓病治療に用い、そのことを1894年に彼の娘が明らかにしました。
英国では議会エンクロージャー後の18~19世紀に囲い込みのための生垣として多用されました。近年では生垣のほか、盆栽が海外でも人気です。非常に硬い材木は、旋盤細工や舟の肋材、杖、レーキ、木炭などに利用されます。幼葉や蕾はサラダなどで食用にされ、特に新葉は「bread and cheese」と呼ばれて飢饉のときに食べられました。パンやチーズの味がするわけではなく、カタバミやマロウ、ソレルなど子どもが遊びで食べる野草もそう呼ばれます。
飢饉のときに食べる刺のある生垣といえば、庄内藩の「かてもの」としてのヒメウコギを連想します。ホーソンの果実は、 紀元前のテウトネス人は生食かシチューやマッシュで食べていたようです。生食で腹痛を起こす人もいて、一般にはゼリーやジャム、ケチャップ、シロップ、ワインなどに加工されます。種子はコーヒーの代用にされます。ホーソンハニーをとる蜜源植物でもあります。
北米にもたくさんの種が存在し、観賞用のほか、果実を食用、根と樹皮を止瀉薬、花と果実を心臓強壮剤などにします。メキシコではテホコテの実をポンチェ(温かいフルーツパンチ)やジャム、菓子に用います。
中薬ではミサンザシとサンザシを山楂と呼び、主として果実を消化不良や腹痛、下痢などの消化器治療やコレストロール低下に用いるほか、葉や花の浸剤を高ビンタンフールシャンジャービン血圧に服用します。また、果実を冰糖葫芦や山楂餅などの菓子や料理、茶、酒などにも利用します。日本には北海道に数種が自生するほか、1734年に中国から薬用植物としてサンザシが渡来しました。英国を主とする欧州での狭義のホーソン(モノギナとラエウィガータ)以外にも、北米やアジアなど各地でのご当地ホーソンの更なる活用が期待されます。
ホーソン(Crataegus:クラタエグス属)の主な種
── 学名(欧州・中国・日本・北米)、種名のカナ表記、[名称、分布、利用など]
- Crataegus monogyna Jacq. モノギナ[和]セイヨウサンザシ、ヒトシベサンザシ[英]common hawthorn, English hawthorn, hawthorn, haw, hedge-row hawthorn, may, mayblossom, maythorn, motherdie, quickthorn, single-seeded hawthorn, whitethorn[分布]欧州~中 東[亜種]var. lasiocarpa[品種]f. pendula, f. pteridifolia, f. semper orens, f. stricta[園芸品種]’Compacta’, ‘Ferox’, ‘Pendula’, ‘Stricta’
- C. laevigata (Poir.) DC. ラエウィガータ[和]セイヨウサンザシ[英]English hawthorn, hawthorn, may ower, midland hawthorn, quick- set thorn, smooth hawthorn, white thorn, woodland hawthorn[分布]欧州[園芸品種]’Punicea’, ‘Rosea Flore Pleno’
- C. × media Bechst. メディア(モノギナとラエウィガータの交雑種)[園芸品種]’Paul’s scarlet’, ‘Rubra Plena’
- C. azarolus L. アザロルス[英]azarole, azerole, Mediterranean medlar[分布]地中海沿岸。アラブで一般的[利用]観賞用、食用、薬用
- C. cuneata Siebold & Zucc. クネアータ [和]サンザシ [英]Chinese hawthorn, Japanese hawthorn [中]野山楂、日本山楂、小葉山楂、 山果子、乾燥果実片を南山楂 [分布]中国南東部 [利用]ミサンザシと同様に中薬や食用、観賞用などに利用
- C. pinnati da Bunge ピンナティフィーダ[和]オオサンザシ、キレバサンザシ[分布]中国北部[利用]中薬
- C. pinnati da var. major N.E.Br. ピンナティフィーダ・マヨル[和]ミサンザシ、オオミサンザシ[英]Chinese hawthorn, Chinese hawberry, Chinese haw, mountain hawthorn[中]山楂、乾燥果実片を北山楂[分布]中国北東部[利用]サンザシも含め、果実を山楂、 種子を山楂核、葉を山楂葉、木材を山楂木、根を山楂根と呼んで中薬に。果実を料理、菓子、茶、酒に。庭木、盆栽
- C. sanguinea Pall. サングイネア [和]ベニサンザシ [英]redhaw hawthorn, Siberian hawthorn [分布]中国北部 [利用]中薬、観賞
- C. chlorosarca Maxim. クロロサルカ [和]クロミサンザシ、サンチン [英]chlorosarca hawthorn [分布]中国東北部、北海道
- C. jozana C.K.Schneid. ヨザーナ [和]エゾサンザシ [分布]北海道、長野
- C. maximowiczii C.K.Schneid. マキシモウィクジイ [和]アラゲアカサンザシ、オオバサンザシ [分布]北海道
- C. aestivalis (Walter) Torr. & A.Gray アエスティウァリス [英]eastern mayhaw [分布]北米南東部 [利用]観賞用、防風林、食用、薬用
- C. arnoldiana Sarg. アルノルディアーナ [英]Arnold hawthorn [分布]北米マサチューセッツ [利用]観賞用、食用、薬用
- C. chrysocarpa Ashe クリソカルパ [英] reberry hawthorn, goldenberry hawthorn, red haw, Piper’s hawthorn [分布]北米北東部
- C. crus-galli L. クルスガルリ [英]cockspur hawthorn, cockspur thorn, dwarf hawthorn [分布]北米東部 [利用]観賞用、食用、薬用(新 芽:小児の下痢止め。樹皮:下痢止め。樹皮・根:胃薬。噛み砕いた葉:腫物の湿布。刺:関節炎や腫物の治療。花と果実:心臓強壮剤)
- C. douglasii Lindl. ドウグラシイ [英]black hawthorn, Douglas’ thornapple [分布]北米西部 [利用]観賞用、食用、薬用
- C. mexicana Mo‡. & Sess‚ ex DC. メキシカーナ [和]テホコテ、メキシコサンザシ [英]Mexican hawthorn [西]tejocote [分布]メキ シコ原産 [利用]樹皮、根、葉を薬用(咳、下痢、寄生虫、高血圧、膀胱炎、糖尿病など)や沈静。果実を食用、飲料 ( ポンチェ )、薬用
- C. mollis (Torr. & A.Gray) Scheele モルリス [英]downy hawthorn, red hawthorn [分布]北米東部 [利用]観賞用、食用、薬用
- C. submollis Sarg. スブモルリス [英]northern downy hawthorn, Quebec hawthorn, hairy cockspurthorn [分布]北米東部
- C. succulenta Schrad. ex Link スックレンタ [英] eshy hawthorn, succulent hawthorn, round-fruited cockspurthorn [分布]北米東部
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第42号 2017年12月