2014.2.15

白い薬VS緑の薬…? ~セントジョンズワートとSSRIの比較結果~

コメント:荒瀬 千秋、翻訳:佐藤 史歩

セントジョンズワートと選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とプラセボの比較実験の結果です。

セントジョンズワートはよく知られているように、うつ病に効果があると言われているハーブです。作用機序は明確にされていませんが、SSRIと同様、セロトニンの再吸収阻害が起こっていると考えられています。

この研究は、SSRIの中でもセロトニン再取り込み阻害効果が最も強く、臨床でも用いられているセルトラリン(ファイザーから商品名「ゾロフト(Zoloft)」、日本では「ジェイゾロフト錠」として販売されている)と、セントジョンズワートを比較している点が画期的です。うつ病に対して、アロパシー(いわゆる西洋医学)の白い薬か、緑の薬か、という問いだからです。

セントジョンズワートとして用いたLi160は、ドイツのLichtwer Pharna AGという製薬会社が販売しているセントジョンズワートのエクストラクトで、うつ病の臨床でよく用いられています。そのため、現在、ヨーロッパでセントジョンズワートの臨床実験を行う際には、通常、このLi160を使用します。

判断に用いたのは、うつ病の評価尺度として世界的によく用いられてきたハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Rating Scale for Depression, HRSDもしくはHAM-D)です。
これは17の設問に対して3つの選択肢(評価数字は0-2)もしくは5つの選択肢(評価数字は0-4)を選び、全設問に対する評価数字の合計が7以下なら寛解した(治った)とするもので、医療者が患者の病状を測るために設計されています。

セントジョンズワートとSSRIとプラセボを比較したところ、それぞれ6.64.5、7.15.4、5.75.4と、ほとんどが7以下になりました。
(通常、A±B [読み方:AプラスマイナスB]と表記する場合、Aに対して+Bもしくは−Bの範囲内に収まる(Bは誤差)、例えば3.0±0.2なら3.0-0.2から3.0+0.2の範囲を示しますが、この論文の表記でBに当たるものは誤差ではなく、Aが数値の上限、Bが下限という意味で用いられているようです)
SSRIもセントジョンズワートも、どちらもうつ病に効果があるという結果になりました。

SSRIよりもセントジョンズワートが良い数値を出している点、メディカルハーブの意義が評価できると言いたいところですが、プラセボの方が、さらに良い数値を出しています。
白い薬VS緑の薬と思いきや、プラセボ効果がいかに重要か、という検証結果を出した論文といえるでしょう。

論文の著者たちはオーストラリア・メルボルン大学精神医学科に所属しているので、実験はオーストラリアで行われたものと思われます。他の国や人種に対して同様の実験を行った結果が今後出てくるのが期待されます。

(コメント:荒瀬 千秋)

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大鬱病性障害におけるセントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)とセルトラリン及びプラセボの比較:26週間ランダム化比較対照試験の連続データ
St John’s wort (Hypericum perforatum) versus sertraline and placebo in major depressive disorder: continuation data from a 26-week RCT.
Sarris J, Fava M, Schweitzer I, Mischoulon D
Pharmacopsychiatry, 2012 Nov;45(7):275-8. doi: 10.1055/s-0032-1306348. Epub 2012 May 16.

要約

抗うつ剤としてのセントジョンズワート[Hipericum perforatum, St John’s wort (以下SJW)] の有効性を検討する短期試験は幅広く実施されているが、長期間の有効性を評価した試験は少ない。本試験では、大鬱病性障害における、26週間、ランダム化、二重盲検、SJW(Li-160)とセルトラリン及びプラセボの比較対照試験から得られた連続データを分析した。124名の被験者(回答者)は、無作為にSJW(900-1500mg)投与群、セルトラリン(50-100mg)投与群及びマッチングプラセボ投与群に割付けられ、試験開始8週目から26週目まで投与を受けた。主要評価項目である26週目にハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)の質問に回答した被験者のスコアは、SJW群で6.64.5、セルトラリン群で7.15.4、プラセボ群で5.75.4と、一時的に有意な効果を示した(p=0.036)。一方、群間比較において有意差はみられなかった(p=0.61)。BDI (ベックうつ評価尺度)、CGI-severity(重症度の臨床全般印象)、CGI-improvement(臨床全般改善度)及びITT解析(治療意図に基づく解析)でも同様な効果がみとめられた。26週目に群間比較したところ、連続データから、はっきりとした結果を得ることができなかったが、SJW及びセルトラリンの両投与群で治療効果がみとめられた。26週目に有意な結果が得られなかったのは、顕著な“プラセボ効果”がみとめられた為と考えられた。

(翻訳:佐藤 史歩)