2017.12.1

シソ科のハーブを属別に(3)

東京大学名誉教授 東京大学総合研究博物館特招研究員

大場秀章

240属に分類される6,700種がシソ科の陣容である。前報でも指摘したように、花は多くの種が、唇弁状の花冠をもつ。多くの種では二強雄蕊(didynamousstamens)と呼ばれ、4本ある雄しべのうち、2本がほかの2本よりも長く、加えて子房は深く4つに割け、花柱がそのまん中につく。また、多くの種が強い芳香を発し、断面が四角に角張った茎をもち、それに葉を対生する。特に肉眼でもわかる、花が唇弁状、すなわち、くちびる状であることや、葉が対生することなどは、その芳香と相俟って多くの人がシソの仲間の植物をほかの仲間の植物から峻別するのに役立ってきた。

しかし、近年になり従来クマツヅラ科に分類されていたかなりの種がシソ科に移されることになった。ムラサキシキブ(Callicarpa)属、クサギ属(Clerodendrum)、ハマゴウ属(Vitex)などがそれで、55属約750種にもなる。こうした移籍組の多くは、子房が4裂すること以外、これまでシソ科の特徴とされた茎の断面の形状や花冠などの特徴を共有せず、肉眼上でのシソ科とクマツヅラ科の相異を不明瞭なものにしてしまった。だがハーブとして用いるシソ科の植物の多くは、ハマゴウ属を除くと、新参組は少なく、従来のシソ科の特徴が所属する科を区別するのに用いることができる。

シソ科のハーブ(3)

前回のシソ科のハーブ(1および2)に続き、所属する属を列記する。*印を付したのは日本にも分布する属である。

Hedeoma(ヘデオマ属)

南北アメリカに分布し、42種がある。葉をスパイスや食用とし、エッセンシャル・オイルに利用する。モスキート・プランツ(mosquitoplant)、ペニロイヤル(pennyroyal)、スコー・ミント(squaw mint)などの英名がある。pennyroyalのpennyは5ペンス貨のこと、squawはインディアンの妻をいう。

Hyptis(ヒプティス属、イガニガクサ属)

アメリカの温帯から熱帯にかけておよそ280種がある。Hyptis crenata Pohl ex Benth.は薬用、Hyptis emoryi Torreyは鎮痛剤や種子を食用にし、Hyptis pectinata(L.)Poit.は、wild mintあるいはcomb hyptisの名があり、葉を香りづけにする。Hyptis spicigera Lam.はブラック・セサミ(black sesame)、ブラック・ベニ・シード(black beni seed)、ブッシュ・ミント(bush mint)などと呼ばれ、油料に広く栽培される。また鉢植えにし、葉をシチューなどの香りづけする。Hyptis suaveolens(L.)Poit.(ニオイニガクサ)は香草として利用されるほか、台湾では山粉圓または山香子、俗に天然タピオカといい、種子に水を加えるとヒキガエルの卵を包む粘液質の物体に似たジェリー状となり、食用とするほか、他地域では抗癌薬や染料に利用される。なお、粉圓とは同じシソ科のバジルOcimum basilicum L.をいうが、タピオカをさすこともある。ニオイニガクサなど数種が日本に帰化している。

Hyssopus(ヤナギハッカ属)

2種があり、ヨーロッパ南部から中央アジアにかけて分布する。Hyssopus officinalis L.(ヒソップ、ヤナギハッカ)はヨーロッパ南部に分布。抗菌作用があり、薬用にするするほか、香油はフランス産の緑または黄色のリキュール酒シャルトルーズ(chartreuse)の香りづけに用いる。

Lavandula(ラベンダー属)

39種があり、大西洋諸島から地中海地域を経てソマリアとインドに分布する。フランスだけで年間に1,350トンの香油が生産される。香油は香水だけでなく、陶器の絵づけにも利用される。また、食品や飲料の香づけにも利用する。ラベンダー水や薬剤にも利用する。香料用にはフランスや英国では主にLavandula×intermedia Emeric ex Loisel.(English Dutchlavenderと呼ばれる)が用いられる。Lavandula angustifolia Mill(.異名Lavandula officinalis Chaix.,Lavandula spicata L.)は、Lavandula×intermediaの片親で、この種も同様の目的で広く栽培される。Lavandula stoechas L.は別名をLavandula incana Salisb.といい、日本ではアラビアン・ラベンンダーの名で知られる。

Leucas(ヤンバルツルハッカ属)*

約100種あり、主としてアフリカおよびアラビアからインド、インドネシアにかけて分布する。日本にはヤンバルツルハッカ(Leucas mollissima Wall.var.chinensis Benth.)がトカラ列島以南に産する。雑草として各地に広がっているLeucas maritinicensi(sJacq.)Sm.は中国で蚊遣りに利用されている。Leucaszeylanica(L.)R.Br.は「驚きのハーブ」を意味するadmiration herbの名が、セイロン・ロイカス(Ceylon leucas)とともにあり、インド圏で葉を香りづけや香辛料に用いる。

Marrubium(ニガハッカ属)

地中海地域を含むヨーロッパに分布し、約40種がある。ニガハッカMarrubium vulgare L.は(ホワイト)ファアハウド(white)horehound)ともいい、葉を喉頭痛などに対する薬用、スパイスあるいはリキュールや菓子の香りづけなどに用いる。日本にも帰化している。

Melissa(メリッサ属)

セイヨウヤマハッカ属ともいう。4種あり、大西洋諸島からヨーロッパを経て中央アジアに分布する。Melissa officinalis L.(セイヨウヤマハッカ、メリッサ・オフィキナリス)はメリッサ、ゴールデン・バウムまたはレモン・バジルとも俗称される。日本にも帰化する。全草に芳香があり、茶剤として発汗や精神安定剤などに利用する。精油成分としてシトラールやシトロネラールを含有し、レモンに似た香りがあり、葉を香りづけにする。var.altissima(Sm.)Arcangやvar.hirsuta Pers.などの種内変異があり、基準変種と同様の目的で利用される。

Micromeria(ミクロメリア属)

54種があり、南アフリカ、マカロネシア(特にカナリー諸島に多く15の固有種がある)、地中海地域からアジアにかけて分布する。ミクロメリア・フルティコーサ(Micromeria fruticosa(L.)Druce)は、地中海地域に分布し、英名をtalmud widder hyssopといい、精油成分を含み、全草をアラブやユダヤ料理で羊肉の芳香剤にする。また同地域ではMicromeria juliana(L.)Rchb.をジュリアン・サヴォリと呼び、スパイスとする。南西ヨーロッパ産のミクロメリア・ピペレルラMicromeria piperella Benth.をスパイスに使う。バルカン半島やイタリア南部ではミクロメリア・チミフォリアMicromeria thymifolia(Scop.)Fritsch.を同様の目的に使用し、英語ではmountain mint(マウンテン・ミント)と呼ぶ。

Minthostachys(ミントスタキス属)

南米アンデス地方に特産し、12種が知られている。Mintostachys mollis(Kunth)Griseb(.ミントスタキス・モリス)は、エクアドリアン・ミントまたはアンデス地方の名であるティポー(tipo)といわれ、全草や葉をスパイスや香辛料、エッセンシャル・オイルにもする。

東京大学名誉教授 東京大学総合研究博物館特招研究員
大場秀章 おおば ・ひであき
当協会顧問。1943年東京生まれ。東京大学総合研究博物館教授。現在は東京大学名誉教授、同大学総合研究博物館特招研究員。専門は植物分類学、植物文化史。主な著書に『バラの誕生─技術文化の高貴なる結合─』(中央公論社、1997年)、『サラダ野菜の自然史』(新潮社、2004年)、『大場秀章著作選集I,II』(八坂書房、2006・07年)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第42号 2017年12月