オオツヅラフジと防已(ぼうい)のいろいろ
防已類の基原植物にはツヅラフジ科のオオツヅラフジ、アオツヅラフジおよびシマハスノハカズラがあるが、中国ではウマノスズクサ科を基原とする植物が含まれ、安全性に問題のあるアリストロキア酸を含有しているので、近年、使用されていない。
オオツヅラフジと防已
オオツヅラフジ Sinomenium acutum Rehderet Wilson(Menispermaceae)の根、根茎または茎の乾燥したものが生薬名を防已として流通している。
1. 日本薬局方の名称の変更
1950年代は医薬品が不足していた。欧米の薬の規格に合わせ1952年に『第6改正日本薬局方』が公布されたが、防已類は収載されていない。しかし医薬品の不足を補うため、日本の伝統薬として知られている漢方薬を見直し、国民医療に用いることになった。
1957年に『第6改正日本薬局方』の補助規格として、『第二改正国民医薬品集』を公表し、この中に漢方処方に用いられる多くの生薬が収載された。防已はカンボウイ(漢防已)の名称で、基原植物はオオツヅラフジ、利用部位は根、根茎または茎を乾燥したもの、その性状を根茎と茎に分けて記載された。根茎は屈曲した径2~4cmの不整円柱形、またはコブ状で、外面は暗灰褐色を呈し、縦ミゾと裂け目がある。多くは輪切りにされ、横断面の外部は暗灰褐色の厚いコルク層に覆われ、内部には灰褐色の導管部と暗褐色の髄線とが放射状に配列し明らかな菊花紋理を現す。茎は径1~2cmのほぼ円筒形で外面は灰褐色を呈し、縦ミゾとイボ状突起がある。多くは輪切りにされ比較的薄いコルク層で覆われ、横断面は灰黄色で、導管部と淡褐色の髄線が放射状に配列する。本品は木質で堅く、味は苦い。
1961年の『第7改正日本薬局方』第二部に国民医薬品集の記載がそのまま収載された。防已の正名をカンボウイ、ラテン名をSINOMENIUM、英名をSinomen,Radix et Caulis、漢字名を漢防已とした。基原植物や性状は上記と同記載である。
1966年に『第7改正日本薬局方』第二部は処方に利用される生薬を正確に記載した大改正を行った。
1961年の漢防已を防已に改正した。
2014年の『第17改正日本薬局方』では、ボウイの名称に英名 Sinomenium Stem and Rhime を追加した。性状は部位を分けず、市場品の形態の円形または楕円形で、厚さ0.2~0.4cm、径1~4.5cmの切片と記載した。横切面を顕微鏡で観察すると、一次皮部にシュウ酸カルシウムの針晶が認められる。これは、有害情報のあるウマノスズクサ属植物には、針結晶は認められないので、鑑別が可能であることにより記載されている。
2. 防已の来歴
防已は『神農本草経』の「中品」に収載されて以来、漢方処方に配合されている。中国では『中葯志』(人民衞生出版社、1959年)に防已とし、粉防已、広防已、木防已などを区別している。日本では江戸時代以前より、防已にオオツヅラフジ Sinomenium acutum の蔓を利用していたが、江戸時代の享保年間に中国産の漢防已の苗が持ち込まれ御菜園で栽培された。この植物が現在、奈良県宇陀市森野旧薬園に保存されている。この保存種はシマハスノハカズラStephania terandra S.Mooreと鑑定され、現在の中国の市場品の漢防已(別名粉防已)はStephania terandra の根に基づく生薬であることから、漢防已の名称は1997年の薬局方から防已に変更されている。
3. ツヅラフジの名称
平安時代の深江輔仁の『本草和名』(918頃)では、防已に項に「和名阿乎迦都良」(和名をアオカヅラ)、および源順の『倭名類聚抄』(934頃)では、防已に「和名阿乎加豆良」(和名をアオカヅラ)とある。江戸時代の小野蘭山は『本草綱目啓蒙』(1806)の防已の項に「アヲカヅラ、アヲツゞラ、ツゞラカヅラ、ツゞラフヂ、チンチンカヅラ、ピンピンカヅラ、メツブシカヅラ、ヤブカラシ、ヤマカシ、ハクサカヅラ、ウマノメ」の記載がある。
4. オオツヅラフジの成分
イソキノリンアルカロイドのシノメニンで、類似したジスシノメニン、シナクチン、ツヅラニン、イソシノメニンが含まれる。
5. 薬効
薬として防已は消炎、利尿、鎮痛薬として水腫、神経痛、関節炎などに用いる。これらを期待して漢方処方では防已黄耆湯や防已茯苓湯に配合されている。江戸時代の臨床家の説(『古方薬品考』(内藤尚賢)では利尿を促し呼吸困難、水腫を去る効果があると記してある。また、民間療法でボウイ10g:200mLを煎剤として神経痛、リュウマチなどに応用している。
6. アオツヅラフジ
学名 Coculus trilobus DC.、ツヅラフジ科の植物である。別名はカミエビと呼ばれる。江戸時代では木防已とされたが、現在は利用されない。植物の特徴は雌雄異株の蔓性落葉木本で、緑色の細い蔓は、長さ2m以上にも伸び、若い蔓は細かい毛が密生する。葉は互生し、形は全縁で、卵型あるいは広い卵型ないし心臓型、多くは葉先が丸く浅く3裂することもあり、形にはバラエティがある。長さは6cm前後、葉柄も短い。表面は少し光沢があり、短毛が密生。葉脈は基部からの主脈が目立つ。円錐花序が枝先と葉腋から出て、淡黄色~黄白色の小花を多数つけ、果実は球形の核果である。国内に広く分布する。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第42号 2017年12月