バコパ抽出物の認知作用に関する無作為化比較試験のメタ解析
この素朴な薬草”バコパ”はアジアの湿地に広がり、インドでは3000年以上前から市民に愛され、様々な症状に用いられてきました。インドの健康対策は各州に任されていますが、各地方の健康状態を表す重要な要素として幼児の死亡率があります。今でもインドでは新生児に水分の多い葉茎の部分をジュースにし飲ませる習慣があります。古くから学習能力向上、新生児の心臓健康維持、肺機能向上、下痢や発熱から子供を守り、脳を休ませ長寿をもたらす、など信じられ、特に以前は伝染病に罹り死亡する場合も多く、そういった習慣が現在も続いているのでしょう。早期健康管理と健康増進。ひとたび予防されてしまえば、それ以後充分な栄養を採っていれば、健康を自動的に増進されるという昔からの人々の考えもあるのではないかと思います。またバコパは効果があるばかりでなく、地方の人々にとって自宅の側で採れるものだったり、栽培していたり、安価にして容易に入手可能な薬物であります。(近年、都会に住む人々は薬局で売られているバコパのシロップを子供に飲ませています。)また、大人は葉茎部分をチャッツネ(野菜や果物に香辛料や砂糖を加え煮込んだり漬けたりして作るペースト状の付け合わせ。カレーや、揚げ物、ナンにつけて食べる。)にし苦味の強さを緩和させた物が食べられています。作り方は日本メディカルハーブ協会監修(日本語版)『メディカルハーブ事典 日本語版』にありますので是非ご覧ください。
アーユルヴェ‐ダの薬草学について簡単に触れておきましょう。アーユルヴェーダには8種の専門分野があり、健康を増進させる不老長寿法(ラサーヤナ)はその中でも重要な分野となっています。2500年前古代アーユルヴェーダ医師チャラカは「メドゥヤ・ラーサーヤナ(知力の増加)」で4種類の薬草について述べていますが、この一般的によく知られている薬草4つは特に成長期の子供の知力を高める為に使われます。またチャラカは「薬物には2つあり、①身体の抵抗力を高めるもの ➁病気を治療するもの。」更に「健康な人間の身体の中で抵抗力(西洋医学の意味する免疫力一般)を高める薬物は精力や活動力を高めもする」と述べています。
その4つの薬草は
⑴マンドゥーカパルニ(Manduka parni・Hydrocotyl asiatica) フレッシュジュース
⑵ヤシュティマドゥー(Yashti madhu・Glycerrhiza glabra)粉にし牛乳と混ぜ飲む
⑶グドゥーチ(Guduchi・Tinospora cordiforia)全体をジュースにしたもの
⑷ジャンカプシュピー(Shankhapushpi・Convulvulus pluricalis)薬草全体
さらに心身相関の健康状態を更に良くできるばかりでなしに、色々なストレス起因の病気も予防できるはずと、以下のような神経に作用する薬草を服用させ精神的な健康も増進、良い効果を引き出すことができるといわれています。
⑴ブラフミ―(Brahmi・Bacopa monniri)鎮静剤
⑵ヴァチャー(Vacha・Acorus calamus)興奮剤
⑶ジョーティシュマティー(Jyotishmati・Celastrus penniculatus)記憶増進剤
⑷アシュワガンダ―(Ashvagandha・Withania somnifera)抗ストレス
これらも安価で入手しやすい薬草です。ここではバコパ以外の薬草に関しては触れずに済ませたいと思います。
2500年前からバコパに含まれる多彩な有効成分は注目、活用されていたことがお分かりになったと思います。
その、バコパの効果は複数の成分によってもたらされます。
◯バコパモニエリの含有成分
<主成分>・バコサイドA ・バコサイドB
<微量成分>・トリテルペン ・サポニン ・サポゲニン ・アスパラギン酸
・γ-アミノ酪酸(GABA) ・フラボノイド ・ベツリン酸 ・スティグマステロール
・β-シトステロール ・グルタミン酸 ・オクタコサン ・D-マン二トール
・α-アラニン 他
主成分である「バコサイドA」と「バコサイドB」。これはバコパ特有の成分で強い活性をもっています。これらはサポニンの一種で近年の研究で見つかったものです。このバコサイドの作用の中でも注目したいのは、有害な活性酸素を消去する抗酸化作用。実験動物にバコパの抽出液を1~3週間与えると、脳の「前頭葉」「海馬」「線状体」といった部位の抗酸化酵素の活性が上昇することが報告されています。これらの部位は不安や情動、記憶力に関係があり、投与によってそれらの部位の抗酸化活性が高まったという報告です。またバコサイドには活性酸素で傷ついた神経細胞のシプナスの樹状突起(突起のうちたくさんある短いもの)の成長に必要な酵素(リン酸化酵素)の働きを助ける作用があり、この作用が活性酸素などで傷ついた樹状突起の修復、再生に役立っています。
脳の健康を保つ効果はこのバコサイドAとバコサイドBを中心に多彩な微量成分が後押しする形で発揮されているのかもしれません。
サポニンは配糖体の一種で種類によって去痰、抗菌、抗炎症、ストレス潰瘍の予防、精神、神経への作用があり近年注目の物質。サポゲニンはサポニンの主要な構成成分です。またアミノ酸の一つであるアスパラギン酸は、有害なアンモニア排泄を促して神経系を守る働きがあり、同時に精神伝達物質の原料であります。同じアミノ酸のγ-アミノ酪酸(GABA)は神経の高ぶりを鎮める抑制性の神経伝達物質です。このほか、フラボノイド(抗酸化作用の強い)やスティグマステロール、β-シトステロールなども含有されています。
結果:
◯インドにおけるバコパの効果
現在も様々な症状に成果があるとインドでは利用されているそうです。
・皮膚病・貧血・糖尿病・歯痛・粘膜の症状・強心剤・血液浄化・熱を下げる・蛇の噛み傷の修復・便秘・流産予防・胃腸障害(特に煙草による影響)・美容効果・精神病・不眠量・てんかん。
バコパとゴツコラ(Gotu Kola・Centella asiatica)が何故同じ「BRAHMI ブラフミ」と呼ばれるかについて。
学名(属名と種小名)の違うこの2つの薬草は、「BRAHMI ブラフミ」の名で呼ばれ、混同されることが多く、また疑問に思われている方もいらっしゃることでしょう。「BRAHMIブラフミ」とは、ヒンズー教の3大神のひとりであるブラフマンの名前に由来し、ブラフマンは宇宙創造の神とされている神です。バコパもゴツコラも人体の司令塔、脳の機能改善に役立つことを考えると当を得た命名と言えます。実際にインドやスリランカの人々はバコパの事をジャラブラフミ(水辺のブラフミ)と呼び、ゴツコラの事はマンドッカパルニ(蛙の葉)と呼んでいるそうなので混同することは無いと聞いております。(ちなみに、ゴツコラも同じように神経系や脳を活性化する効果がありますが主成分は異なります。詳しくは2012年12月2日の国際情報ゴツコラをお読みください。)
実は、神の名について気になることがあります。ブラフマンの妻 サラスヴァティーも同じように「ブラフミ」と呼ばれており、「サラ」は「本質」、「スワ」は「自己」を意味するサンスクリット語に由来し、サラスヴァティーの名前は「本質的な知識を与える人」を表します。あらゆる知識、芸術、科学、技術などが人格化されたサラスヴァティーは、人類のために言葉と文字をつくり出しました。そして、話す能力、知恵、知性、こころ、才能、帰依の心などを授けました。サラスヴァティーの4本の腕は、学習における人々の4つの側面である、心、知性、覚醒、エゴをあらわしています。一つの手には聖典を持ち、もう一方の手には真の知識の象徴である蓮や数珠を持ちます。それは、すべての科学についての知識を表わすと共に、さらにこの知識が私たちを真実へ単独で到達できることを示します。
別の意味では、右手の数珠は精神的な科学をすべてを表し、それは彼女の左手にある世俗的な知識を表す本より重要だと象徴しているようです。この彼女の4つの腕は4つの方角を差し、無制限の力を表わしています。
また、別の2つの手にはヴィーナ(楽器)があり、愛にみちた人生をおくる音楽を奏でています。この4つの全ての物は知識を備えた心および知性を合わせます。したがって、探求者は宇宙と調和することができると語りかけているのではないでしょうか。また、バコパの生息する、水や川の神でもあります。
インドやスリランカのアーユルヴェーダ医師に答えを求めると、バコパのサンスクリット語名「BRAHMI ブラフミ」は、夫の「ブラフマン」の事ではなく妻の「サラスヴァティー」の「ブラフミ」と言われます。ブラフマンの配偶者であるサラスヴァティーは宇宙の第2の創造者。したがって、彼女は宇宙の母親であり、この地球の肥沃と豊穣を祈り続けているのではないでしょうか。
世界中に自然界にバコパはたくさん存在しています。今後、欧米の医療研究者の関心を更に熱め、有効成分の特定、効果の仕組みについても科学的データが揃い、食品の安全性も評価されるようになることでしょう。すでにアーユルヴェーダの薬草ギムネマシルベスタ(Gymnema Sylvestre)は、日本でも糖尿病に薬効があるとして(ギムネマシルベスタに含まれるギムネマ酸による血糖値を下げる・ダイエット・コレステロールを下げるなどの効果がある)有名になり、多くの人が知る薬草です。 ストレス社会の現代に住む私たちや、発展途上国の地方に住む人々、子供から大人まで、国境を超えて多くの人々の健康増進に役立つ注目の薬草バコパ。将来私たちの心強い味方になるかもしれませんね。
(参考文献 アーユルヴェーダの伝統薬草 バコパで心の病に克つ 矢澤一良 ハート出版)
(翻訳、作成:加藤絹子、監修:金田俊介)
日本メディカルハーブ協会監修 メディカルハーブ事典を是非ご参照ください。多くの事を学べることと思います。