2016.12.1

ヤブガラシ、エビヅルおよびカガミグサ

昭和薬科大学薬用植物園 薬用植物資源研究室研究員

佐竹元吉

ブドウ科の薬用植物

ブドウ科の薬用植物にはブドウ以外にも野生植物がある。ブドウの果実は薬用葡萄ぶどう酒の原料、葉は西洋ブドウとして医薬品など国内で販売されている。ブドウの種子のポリフェノールは機能性が知られている。ブドウはヨーロッパ原産で和の生薬ではないので、ブドウ以外で国内のヤブガラシ、エビヅルおよびカガミグサについて以下に述べる。

1. ヤブガラシ

ヤブガラシは路傍の雑草の代表のようで、ビンボウガラシなどとも呼ばれていた。江戸時代には烏蘞苺ウンレンバイと呼ばれ、本草書に書かれている。民間では、ヒサゴヅル、ビンボウヅル、ビンボウカヅラ、フクヅル、五葉カヅラ、カキドオシなどと呼ばれている。リンネの弟子のツンベルグが、長崎から江戸への道中で採集したのがヤブガラシだったようである。ブドウの仲間は単葉が多いが、複葉のヤブガラシを『日本植物誌』にブドウ属の植物として、Vitis japonica Thunberg(1784)と命名された。その後、1911年、フランスの植物学者Gagnepainの観察で、ブドウ属は花弁の先端が癒合しているのに対して、ヤブガラシは花弁が離生し4個であること、花序が房状にならないとされ、ブドウ類とは異なり、新しい学名Cayratia japonica(Thunb.)Gagnep.と命名された。

形態と分布

多年生のツル植物。葉に対生する巻きひげで絡みつきながら生長する。葉は互生し、鳥足状の複葉である。小葉は5個。花序は集散し、花は両性花である。花は直径約5mmで、初め、薄緑色の花弁4枚、雄しべ4本、短い雌しべ1本で、花弁と雄しべは開花後短時間で散り、中央の白黄色の花柱が伸びてくる。雌しべは立ち、橙色の花盤がある。この花盤は蜜が豊富で、蜂や蝶などの昆虫がよく集まる。この花盤の色はやがて、桃色に変わる。果実は球形で黒熟する。日本および東アジア、東南アジアに広く分布する。

国内で、最初に書かれた深江輔仁ふかえすけひとの『本草和名』(918)に「烏蘞苺ウンレンモの和名は比佐古都良」とある。林羅山の『多識編巻二』(1612)では「烏蘞苺はヒサゴヅル」、また単にツタと呼んでいた。江戸時代の本草家の貝原益軒は、『大和本草』(1709)に「五爪竜ビンボウカツラ」は葉が『本草綱目』の烏蘞苺に似ていると記してある。葉と茎は乾燥すると疥癬に効くとされている。寺島良安の『和漢三才図会』(1713頃)には「烏蘞苺」の記載がある。

中国明時代の李時珍の『本草綱目』を小野蘭山が日本語で解説書『本草綱目啓蒙』(1803-1806)として作成し、烏蘞苺の薬効として解毒、抗炎および利尿作用があると記している。民間薬としては、根や全草を、消炎、解毒、利尿、鎮痛薬として、化膿性疾患、腫物、ただれ、瘡、骨折の炎症、肺結核、打撲傷、黄疸、下痢に用いる。根の煎液で浮腫を冷湿布する。

ヤブガラシ
エビヅル

2. エビヅル

エビヅルは別名にイヌエビ、エビカヅラ、イボオトシグサ、ヤマエビと呼ばれている。エビヅルも道端の雑草で、どこでも見られる。シーボルトが長崎から江戸への旅で集めた植物のひとつである。ブドウの仲間だったので、ヤブガラシの学名をつけたツンベルグにちなんでVitis thunbergii Siebold et Zucc.と命名した。

形態と分布

エビヅルはツル性の落葉木本で、雌雄異株である。ツルは巻きひげで、ほかの木に絡みつく。巻きひげは茎に対して葉と対生する。葉は互生し、葉柄があり、葉身は広卵形あるいは卵形で、浅く3~5裂する。列片の先は鈍頭。縁にはまばらな鋸歯がある。表面は無毛、裏面には赤褐色の綿毛がある。よく似たノブドウは両面ともほぼ無毛。花は雄花、雌花ともに黄緑色で、長さ6-12cmの総状円錐花序に咲く。秋には直径5-6mmの果実がブドウの房状に黒く熟し、食すると甘酸っぱい味がする。しかし、果汁にエビヅル臭という青臭いにおいがある。日本および朝鮮半島、中国に広く分布する。

本草書の記載は、平安時代の『本草和名』や『倭名類聚抄』に「和名 衣比加都良えびかづら」などと記載されている。古い時代から親しまれていたようである。江戸時代の『本草綱目啓蒙』に「狩衣などを紫黒色に染めることをエビ染めと呼び、葡萄の熟した果実の色にたとえたもの」といった記述がある。清少納言の『枕草子』にも「えびぞめ」(葡萄染)の記載がある。古い時代にはツルは縄や綱として利用したようである。

民間薬として、根には解熱作用があり、葉は乾燥して揉んでモグサにして、イボやアザを治す灸に用いる。エビヅルの蔓茎や果実は、渇きを止め、利尿作用があり、根は焦熱痛、腹痛、腫毒、脚気、便秘に用いる。乾燥した葉からとる毛をもぐさ代わりに灸に用い、イボやアザを治す。砕いた生の根を、できものに塗布する。葉の煎汁を、淋病の解熱薬、脚気に服用する。

3. カガミグサ

カガミグサを和の生薬に入れるべきか悩む。カガミグサの根はビャクレン(白蘞)と呼び、中国の漢時代の『神農本草経』の下品に収載されているもので、日本へは江戸時代、亨保の初め、将軍吉宗は朝鮮、中国などの外国産薬用植物の国内栽培を実施するが、その中に、カガミグサ・白斂があった。幕府直轄の小石川御薬園、駒場御薬園、麻布御薬園の当時の栽培目録には、カガミグサの栽培が記録されている。

しかし、ビャクレン(白蘞)は『日本書紀』に、少彦名命(薬の神様)が白斂カガミの皮を舟とし、やって来たとあるが、ブドウ科の植物の果皮は船にならないので、白蘞は別の植物かもしれない。『出雲国風土記』に既にその名前がある。学名は牧野富太郎が1903年、日本の植物としてAmpelopsis japonica(Thunb.)Makinoと命名している。

形態と分布

茎には巻きひげあり、葉柄あり、葉形は掌状に5裂し、葉縁は粗い鋸歯あり、花序は集散花序、花色は薄黄、花弁数は5枚である。果実は液果で球形、色は白、紫、青である。中国原産。

カガミグサ

おわりに

ブドウ科の植物にギョウジャノミズ(行者の水、和名サンカクヅル)がある。これは薬用植物ではなく、修行中の行者が茎を切って出てくる水で、喉の渇きを癒したそうである。

サンカクヅル




昭和薬科大学薬用植物園 薬用植物資源研究室研究員
佐竹元吉 さたけ・もとよし
当協会顧問。1964年東京薬科大学卒。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第16改正日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)、『毒と薬の科学』(日刊工業新聞社)ほか。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第38号:2016年12月