【薬物相互作用を学ぶ】メディカルハーブ安全性ハンドブック第2版
AHPA(米国ハーブ製品協会)編集の『メディカルハーブ安全性ハンドブック第2版』では、初版からの変更点として収載されたすべてのハーブについて医薬品との相互作用の可能性を「クラスA:臨床的に関連のある相互作用が予測されないハーブ」、「クラスB:臨床的に関連する相互作用が起こり得ることが生物学的に妥当であるハーブ」、「クラスC:臨床的に関連する相互作用が起こることが知られているハーブ」の3段階に分類して記載しています(表1および2参照)。
本稿では当協会発行の「ハーバルセラピストコース・テキスト」の各論30種のハーブのうちクラスBまたはクラスCに分類されたイチョウ、ジンジャー、セントジョンズワート、バレリアン、マテの5種について要点を記載します。
1.イチョウ(相互作用クラスB)
イチョウ葉抽出物はCYP2C19を誘導することを示しています。その一方、他の研究では誘導や阻害を示唆するなど混在した結果になっています。
健常な被験者に100mgのシロスタゾール(商品名プレタール)または75mgのクロピドグレル(商品名プラビックス)と一緒に120mgのイチョウ葉の単回用量を経口投与したところ、シロスタゾールまたはクロピドグレルの単独使用と比較して血小板阻害に有意な差は認められませんでした。
凝固時間や血小板数で変化は見られませんでしたが、イチョウ葉とシロスタゾールの組み合わせで出血時間の延長が観察されました(Aruna and Naidu 2007)。アルツハイマー病の患者に対して1日当たり90mgのイチョウ葉抽出物とともにドネペジル(商品名アリセプト)を30日間投与したところ。ドネペジルの血漿濃度に有意な影響は認められませんでした(Yasui-Furukori2004)。
2.ジンジャー(相互作用クラスB)
ジンジャーは抗血小板作用を有することが報告されています(Srivastava 1984)。7日間のジンジャー(1日当たり3.6g)の投与後においてワルファリン(商品名ワーファリン25mg)の影響は認められませんでした(Jiang 2005)。1日当たり10mgのニフェジピン(商品名アダラート)とともに1gのジンジャーを7日間投与した場合、ジンジャーまたはニフェジピンの単独投与と比較して血小板凝集のより有意な阻害を示したことから2つの薬剤の相乗効果が認められました。効果は高血圧の人よりも正常血圧の被験者でより顕著でした(Young 2006)。
3.セントジョンズワート(相互作用クラスC)
セントジョンズワートはCYP450酵素系および薬物輸送体タンパク質のP-糖タンパク質(P-gp)において特定の薬物代謝酵素を誘導することが示されています。ヒトへの研究ではCYP450の有意な誘導(Bauer 2003他)およびCYP2C19の誘導に対しいくつかの証拠が示されており(Wang 2004)、これらの酵素によって代謝またはP-gpによって輸送されることで薬の血漿濃度に減少が認められています。
腎移植患者においてシクロスポリンの標準用量に加えて1日当たり600mgのセントジョンズワートを2週間経口投与した結果、シクロスポリンのクリアランスに増加が認められました。シクロスポリンの最大の血漿濃度は平均42%まで減少しました(Bauer 2003)。
またセントジョンズワートの光感作のため光感作薬との併用は避けるべきです(Fiume 2001)。ヒペリシンは光毒性作用の主な原因となります(Gulick 1999他)。
表1相互作用クラスB:臨床的に関連する相互作用が起こり得ることが生物学的に妥当であるハーブ
- スプレッディングドッグベイン
- インディアンヘンプ
- アストラガルス(オウギ)
- サフラワー(ベニバナ)
- グッグル
- リリーオブザバレー
- スコッチブルーム(エニシダ)
- イチョウ
- リコリス(カンゾウ)
- アメリカンジプシーワート
- ヨーロピアンジプシーワート
- ジプシーワート
- アメリカニンジン
- ヨヒンベ
- ヤボランジ
- ロングペッパー
- カバカバ
- ペッパー(クロコショウ)
- フワンチン
- ナイトブルーミングセレウス
- エボディア
- メキシコバレリアン
- インディアンバレリアン
- バレリアン
- パシフィックバレリアン
- ジンジヤー(ショウガ)
表2相互作用クラスC:臨床的に関連する相互作用が起こることが知られているハーブ
- トウキ
- ベラドンナ
- 茶(紅茶・緑茶)
- ビターオレンジ(ダイダイ)
- コーヒー
- コラ
- ジギタリス
- ケジキタリス
- セントジョンズワート
- マテ
- ガラナ
- チャイニーズサルビア(タンジン)
- シサンドラ(チョウセンゴミシ)
- シサンドラ
4.バレリアン(相互作用クラスB)
バレリアンはいくつかの鎮静作用を増強させることが推測されているためバルビツレート、ベンゾジアゼピンおよび他の鎮静剤の使用には注意が必要です(Brinker 2001)。
5年間、バレリアン(1日当たり500~2000mg)および多くの薬剤やサプリメント(アスピリン、ロバスタチン、イブプロフェン他)を摂取していた心血管疾患の病歴のある男性で、せん妄とともに心不全の症例が報告されました。報告医師はバレリアンはガンマアミノ酪酸神経伝達の強化を通してベンゾジアゼピン様作用を発揮すると考えられることを述べました。彼らはこれらの症状はベンゾジアゼピン離脱症状と類似しており、心不全はバレリアンの離脱によるものであったとする仮説を示唆しました(Garges1998)。
バレリアンの花
5.マテ(相互作用クラスC)
マテは神経系刺激物質であるカフェインを含みます。カフェインを含むマテ製品を大量に摂取した場合は不眠、神経過敏、および他のカフェイン過剰摂取症状を引き起こす可能性があります(Donovan 2001)。気管支拡張薬またはアドレナリン薬を含む他の中枢神経系刺激薬とカフェインとの併用は神経過敏、イライラ、不眠、痙れんや不整脈といった過度の中枢神経刺激を引き起こす可能性があります(PDR 2006)。またカフェインは薬物代謝酵素CYP1A2の基質です(Nordmark 1999)。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第36号:2016年6月