【広がるメディカルハーブ】ホリスティック獣医学における
メディカルハーブの活用
1.はじめに
ホリスティック医学の獣医領域への応用であるホリスティツク獣医学への関心が飼い主の間で高まっています。こうした動きには2つの要因があり、まずひとつには飼い主と動物との関係の変化があります。従来の「ペット」と呼ばれる存在は主人の下僕であり、上下関係がはっきりしていましたが、最近は「コンパニオン・アニマル(伴侶動物)」つまり家族の一員としての動物という位置づけに変化しています。もうひとつの理由は動物の病気の質的変化で、ストレス病やアレルギーなどの慢性疾患が増加し、西洋医学よりも相補・代替療法への期待が高まっているのです。
2.メディカルハーブの使用法
メディカルハーブを犬に与える場合は、ヒトの場合と同じように茶剤(ハーブティー)やチンキ剤(アルコールチンキとグリセリンチンキ)、それにカプセル剤などさまざまな剤形があります。最も実用的なのがドライハーブを粉砕して与える方法と茶剤として与える方法です。前者では微粉末にしたものを食餌によく混ぜて与えます。ハチミツと混ぜて丸剤にしたものをのどに押し込む方法もあります。後者ではヒトと同じ要領で熱湯抽出したものを冷ましてから直接飲ませるか、あるいは食餌にかけて与えます。
服用量については厳密に計量する必要はありませんが、一応の目安としてホリスティック獣医師である青木奈緒美先生のアドバイスを表1に示します。服用期間についてはケース・バイ・ケースですが、長期にわたる場合は連日与える方法と例えば1週間に1日は休むといったインターバルをおく方法があります。この方法は服用の効果の判定や副作用のリスクの回避に有効です。なお、この他に外用として冷ました抽出液を用いた湿布や沐浴などの方法があります。
3.メディカルハーブの選択
ここでは臓器別によく用いられる代表的なメディカルハーブをいくつかご紹介します。(なお、実際にはホリスティック獣医学では西洋医学のように疾患の場所によってメディカルハーブを選択するといったアプローチはとりません。)
1.心臓
血液循環を司る心臓にはホーソンやコーンシルク(トウモロコシの毛)が用いられます。ホーソンは心臓の機能を高めて血圧を安定化し、コーンシルクは水分の滞留によるむくみを取り去り心臓の負担を軽減します。
2.胃腸
消化や吸収を司る胃腸にはジャーマンカモミールやマシュマロウが用いられます。ジャーマンカモミールは消炎成分を含み、粘膜の炎症を和らげ、マシュマロウは豊富な粘液質を含み粘膜を保護して治癒を促します。
3.肝臓
解毒を司る肝臓にはミルクシスルの種子やダンディライオンの根が用いられます。ミルクシスルの種子は肝臓を酸化障害から守るとともに肝細胞の新陳代謝を促し、ダンディライオンの根は肝機能や胆汁の分泌を高めます。
4.腎臓
尿の排泄を司る腎臓にはダンディライオンの葉やイチョウの葉が用いられます。ダンディライオンの葉は強力な利尿作用をもたらし、イチョウの葉は腎血流量を増やして腎機能を高め、生命力を回復します。
5.膀胱
泌尿器官である膀胱にはマシュマロウやエキナセアが用いられます。マシュマロウは豊富な粘液質を含み粘膜を保護して治癒を促し、エキナセアは免疫系を賦活して膀胱炎などの泌尿器系感染症を防ぎます。これ以外に日常的に与えると疾病の予防に役立つメディカルハーブとしてネトルとローズヒップがあります。ネトルはフラボノイドを豊富に含み、血液浄化を促して体質改善をもたらします。また、ビタミンやミネラルを豊富に含み栄養補給にも役立ちます。ローズヒップはビタミンCやカロチノイド、それにフラボノイドを含み生化学反応を円滑に進めるとともにストレス耐性を高め、疾病の予防にも貢献します。
4.メディカルハーブの使用上の注意
一般にメディカルハーブは動物に対しても医薬品に比べて安全性は高いものの場合によっては使用を控えるべきケースもあります。一例をあげると著名な動物ハーバリストであるグレゴリー・ティルフォード氏は妊娠中に控えるものとしてブラックコホシュやレッドクローバーを、肝臓病に控えるものとしてペニーロイヤルやタンジーを、腎臓病に控えるものとしてジュニパーやウワウルシをあげています。またコンパニオンアニマルとはいってもヒトはヒト科でありイヌはイヌ科、ネコはネコ科という厳然とした違いがあり、そこからくる生理の違いを忘れてはいけません。一例をあげればネコは肝臓での代謝の過程でグルクロン酸抱合ができないため、フェノール系の成分を含む精油の使用は禁忌となります。私はイヌに対しても精油の使用は控えるか、または最小限の使用にとどめるべきだと考えています。一方、イヌに対する芳香蒸留水(フローラルウォーター)の使用については例えばクロモジウォーターは抗炎症作用や抗菌作用をもつので耳掃除や趾間の炎症、皮膚のトラブルなどに十分な配慮のもとで活用することをお勧めしています。
5.おわりに
ヒトと動物が家族の一員同士として暮らすには、動物行動学を学ぶなどヒトが動物の内面を理解するとともに動物には躾によってヒトの社会のルールを学んでもらう必要があります。そして毎日の暮らしの中でメディカルハーブを活用することはヒトと動物の絆をより一層深いものにしてくれます。前出の青木奈緒美先生は動物のホリスティックケアのポイントとして、1血液や尿のデータを記録しておくなどの方法でその子の「今を知る」こと、2性格や環境などその子に合ったケアの方法を選択すること、3季節や年齢などによる変化に対して早めのケアを行うこと、4体の一部だけでなく全体のバランスを整えることの4つをあげています。
なお本稿については『ペットのためのハーブ大百科』(グレゴリー・ティルフォード著,金田郁子訳,金田俊介監修,ナナ・コーポレート・コミュニケーション発行)を参考にしました。またホリスティック獣医師の青木奈緒美先生と動物ホリスティックケアの専門家である姫野純子先生にアドバイスをいただきました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第31号:2015年3月