シナモンが作業記憶の向上に
作業記憶(ワーキングメモリ)とは、情報を一時的に頭の中においておく能力のことです。仕事や会話、読み、書き、計算などの基礎となるため、わたしたちの日常生活に欠かせないものです。認知機能の測定にはよく MMSE(ミニメンタル・ステート)というテストが用いられます。ワーキングメモリ・テストは MMSE と比べてより基礎的な認知機能である一時記憶力を、数字や単語を覚えられたかどうかなど簡単なテストで測定するものです。
糖尿病になると、将来認知症になるリスクが高まることがわかってきています。今回紹介する論文は台湾の糖尿病予備軍を対象としていくつかの試験をするうち、シナモンを摂取している方々はそうでない方々に比べてワーキングメモリ・テストの点数が良かった、というものです。シナモン摂取者は 15 名のみの小規模の研究のため、この研究結果からはまだシナモンと作業記憶との関係について結論づけるのは早そうです。
(コメント:桂川直樹)
前糖尿病患者のシナモン使用者は、空腹時の作業記憶を有する:横断的な機能の研究。
“Cinnamon users with prediabetes have a better fasting working memory: a cross-sectional function study.” Wahlqvist ML et al. Nutr Res. 2016 Apr;36(4):305-10.
前糖尿病患者は作業記憶が機能低下している場合があります。そのため、私たちの研究グループでは、料理のハーブやスパイスがインスリン抵抗性を低下させ、前糖尿病の作業記憶を改善する可能性があるとの仮説を立てました。
正常範囲(空腹時血糖 100-125mg/dL:男性 47 名および女性 46 名)ではあるが、糖尿病予備軍と考えられる 60 歳以上の健康な人を対象として、食物頻度アンケートで食物摂取情報を取得し、身体組成を評価し、空腹 時血糖およびインスリンを測定しました。作業記憶とミニメンタル・ステートを同じ機会に評価し、作業記憶 と食事、体脂肪、およびインスリン抵抗性との間の関連への寄与は、線形回帰によって推定されました。
シナモン使用者は、シナモンを使用しない方と比べて身体活動が有意に少なく(週に2.9対4.4回)、新鮮な生姜(93.3%対64.1%)および加熱された生姜(60.0%対32.1%)を多く摂取し、より良い作業記憶(2.9対2.5、P <0.001)を持っていました。生姜やカレーの使用では有意差がでていないのに対し、シナモンを摂取している群では作業記憶に有意差(シナモン使用者は0.446高い)を示しています。
作業記憶の予測において、社会人口統計学的変数としては、教育年数のみが有意でした(β=0.065)。作業記憶の他の重要な決定要因は、総脂肪量(キログラム)(β=-0.024)およびミニメンタル・ステート(β=0.075) でした。年齢および性別の調整後も、シナモン使用、教育年数、およびミニメンタル・ステートは、作業記憶の予測において有意差を示しています。リストされたすべての変数を同時に調整した最後的なモデルではシナモン利用者は作業記憶には有意差がありました。
シナモンの使用は、未治療の前糖尿病において、食事の質やインスリン抵抗性を考慮しないとしても、作業記憶と正の相関がありました。