良眠のためのハーブを学ぶ「カモミール」
PICK-UP HERB
カモミール Chamomile
「 ジャーマンカモミール 」
【学名】Matricaria chamomilla L.(Matricaria recutita L.)
【科名】 キク科
【使用部位】 花部
【主要成分】 精油(-αビサボロール、カマズレン)、マトリシフランボ、ノイド
【作用】 消炎、鎮静・鎮痙・駆風
【適応】 胃炎・胃潰瘍・月経痛・皮膚炎など
「緑の薬箱」として親しまれ、鎮静作用で睡眠を誘うハーブ
可憐な白い花が印象的なカモミール。その歴史は古く、太古の昔から民間薬として使われており、人とのかかわりも深いハーブです。胃炎、不眠、冷え症など幅広い薬効を示す万能ハーブのため、ヨーロッパを中心に「緑の薬箱」と称されるほど。カモミールと名のつく植物はいくつかありますが、単にカモミールというと、日本では一般にジャーマンカモミールを指します。カモミールの属名の Matricaria は「子宮」を意味するmatrixに由来し、当時、この属の植物が婦人病に薬効があるとされていたことによります。カモミールの名前は、古代ギリシャ語の「地面の、地表の」を意味するχᾰ μαί(chamai)と、「りんご」を意味するμήλον(mēlon)に由来しており、「大地のリンゴ」とも呼ばれ、その名の通り、りんごのような甘い香りが特徴です。(フランスではジャガイモのことを「大地のリンゴ(pomme de terre)」と呼んでいるので注意)
メディカルハーブとしても定番のカモミールは、鎮静作用のある甘い香りで、緊張を緩和し、リラックス感をもたらしてくれます。中でもハーブティーは、「眠りを誘う」として今でも多くの人に親しまれています。
HISTORY
B.C.4000 年以上前
【バビロニア】
カモミールは紀元前4,000年以上前から薬草として利用されていたことがわかっており、実際に、バビロニアの遺跡では、カモミールと記された粘土板が残されています。また、古代エジプトでは太陽神ラーに捧げられていたともいわれています。
B.C.2800 年頃
[ メソポタミア ]
メソポタミア文明の民族、シュメール人は粘土板に2,500種の薬草リストの処方を残しています。鎮痛剤としてカモミール、胃腸薬としてビールにシナモンなどを溶かし、蜂蜜などで甘みをつけた飲み物を飲んでいたようです。
B.C.460年 ~ 300年頃
[ 古代ギリシャ ]
紀元前に古代ギリシアで医学の基礎を築き「医学の父」と呼ばれたヒポクラテス(B.C.460-B.C.377頃)は、カモミールを解熱剤として用いたといわれています。
300年頃~
[ ローマ帝国 ]
臨床医としての経験と多くの解剖によって、古代における医学の集大成をなしたローマ帝国時代のギリシアの医学者ガレノス(129-200頃)は、カモミールの抽出液の薬効について述べています。
1600年頃~
[ アメリカ大陸 ]
清教徒がメイフラワー号で新大陸に移住した際に、家財道具と共に料理用、香料、薬用としてカモミール、マリーゴールドなども運搬され、アメリカ大陸にさまざまなハーブがもたらされたといわれています。
1800年頃~
[ 日本 ]
江戸末期オランダからカモミールが渡来し、和名を「カミツレ(加密列)」としました。その後、日本薬局方に1886年から1971年の85年間「カミツレ花」が解熱剤として登録されていました。
TOPICS
日本におけるカミツレ(加密列)の歴史
カモミールの和名はカミツレ(加密列)と表します。オランダ語のkamille(カミレ、カミッレ)が語源で、カミッレ=カミツレと綴ったことからきており、カミルレとも呼ばれます。江戸時代の本草学者小野蘭山の『本草綱目啓蒙』(1803年)には「カモメイリはカモメルラの訛」「京都にてギンコウライ」「大阪にてチョウセンギク」「エゾ産もあり」とあります。これがカミツレに関する最初の記載なのか、シカギク(Matricariatetragonsperma (F.Schmidt) Hara & Kitam.)のことなのかははっきりしません。宇田川玄真・宇田川榕菴の『遠西医方名物考』(1822年)には、加密列に「尋常加密列」と「羅謨設加密列」の2種があり、どちらも薬用とすることが記されている他、これらの「加密列煎(煎剤)」や、「加密列熨方(温湿布剤)」、「加密列蒸留油(精油)」、「加密列煎油(オリーブオイルによる加熱抽出物)」の方法や用途についても記されています。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第44号 2018年6月