2018.3.1

ソウパルメットの植物学と栽培、 人との関わり

博士(農学)

木村正典

分類・名称

ソウパルメット (saw palmetto) はヤシ科 (Arecaceae) セレノア属 (Serenoa) で、セレノア属は 1 属 1 種、ソウパルメットのみです。

学名はSerenoa repens(W. Bartram) Smallです。シノニムには Serenoa serrulata (Michx.) Hook.f. ex B.D. Jacks.のほか、Brahea serrulata (Michx.) H.Wendl.や Corypha repens W. Bartram、Diglossophyllum serrulatum(Michx.)H.Wendl. ex Salomon、Sabal serrulata (Michx.) Schult. f. など別属のものがあります。

属名のSerenoaはアメリカの植物学者Sereno Watson(1826 – 1892)への献名です。学名にはしばしば敬意を表して人名が織り込まれることがあります。ワシントンヤシ属の属名 Washingtonia はワシントン大統領への献名です。近年では、トランプ大統領(Tetragramma donaldtrumpi; 化石ウニの一種)やイチロー(Diolcogaster ichiroi; コマユバチの一種)の名のついた学名が話題になりました。

種小名のrepensは「匍匐ほふくする」「地這いする」を意味し、ソウパルメットの形態的特徴に由来します。

英名ではsaw palmetto(ソウパルメット)以外に、 American dwarf palm tree, cabbage palm, sabal palm, saw palmetto berry などと呼ばれています。saw palmettoのsaw は「のこぎり」を意味し、葉柄にある 鋸状のとげに由来します。palmettoはスペイン語のpalmitoを語源とし、「ヤシ」や「手のひら」を意味するpalmaと、「小さい」を意味する接尾語-ettoからなり、「小さな掌状ヤシ」を意味します。単にpalmettoというと、サバルパルメットとも呼ばれるヤシ科サバル属(Sabal)植物を指します。

和名はノコギリヤシで、ノコギリパルメットとも呼ばれます。和名の由来は英名と同じです。

生態・形態

フロリダ原産で、北米南西部のサウスカロライナ州からルイジアナ州にかけての海岸線に沿って、スラッシュパインやダイオウマツなどのマツ林や、乾燥草原、湿地の高台などに自生しています。特に、フロリダ州エバーグレーズでは、ハンモックと呼ばれる特異な植生において、南フロリダスラッシュパインなど針葉樹で形成された高木林の下層に群生して見られます。

また、ソウパルメットは火事の後も最終的に安定した植生を形成する典型的な火事極相種(fire climax species)でもあります。山火事などで葉が焼けても根茎は残ってすぐに萌芽し、植生を回復します。

寿命は長く、原産地のフロリダでは古いもので500~700年ともいわれています。

樹高2~4mの常緑樹で、幹(茎)は小さいうちは直立しますが、やがて倒れて地を這うのが大きな特徴です。ヤシ科植物は直立するものが多く、このように匍匐するものはテーブルヤシ属(Chamaedorea)などで数種見られる程度です。

茎の基部の腋芽から栄養枝であるサッカー(吸枝)を出して分枝するとともに花茎を出します。ほかのヤシと違い、花芽と葉芽の区別がはっきりしません。腋芽のうち半分は発育せず、4 割が花茎となり、1 割がサッカーとなるという報告があります。

葉身は手のひら状で 1 m に達し、シュロやワシントンヤシに似ています。葉色には濃緑色の系統とシルバーの系統があります。シルバーリーフの系統はフロリダの大西洋岸に沿って見られます。

葉柄は半月状の断面をしており、その両端に鋸状の棘があって、それが英名、和名の由来になっています。葉柄長は 60 c m 程度です。

マツ林の下層に群生するソウパルメットSerenoa repens (W.Bartram)Small

花は無柄で、分枝した円錐花序の花軸に互生します。萼は筒状、花冠は白色で 3 裂し、花弁の長さは 3 ~ 5 mm です。雄蕊は 6 本、雌蕊は 1 本です。春に開花します。虫媒花でよい香りがあり、コハナバチをはじめ、3 1 1 種の訪花昆虫の存在が報告されており、生物多様性に大きく貢献しています。

果実は核果で、果肉(中果皮)が柔らかく、berry(ベリー)とも称されます。内果皮は堅く、ウメのように殻を形成し、その中に種子(仁)があります。果実長は 2 ~ 3 cm で、楕円体を呈し、オリーブの果実のような形、大きさです。果実は未熟なうちは緑色ですが、熟すにつれオレンジ色になり、やがて完熟すると黒くなります。夏から秋にかけて熟します。

種子は 2 × 1 cm の長楕円形で薄いオレンジ色を呈しています。

栽培

自生地の北米南西部は、夏の平均最高気温 35 °C、冬の平均最低気温氷点下 4 °Cになる地帯ですので、日本でも寒冷地以外では屋外で栽培でき、寒冷地でも冬に室内に取り込めば栽培が可能です。

繁殖は種子繁殖か、株分けや挿し木による栄養繁殖で行います。種子繁殖の場合、乾燥果実をそのまま播くと殻(内果皮)が堅いために、発芽に 3 ~ 6 ヵ月を要すほか、発芽率も 2 5 °Cで 1 ~ 8 %と極めて低いです。発芽の向上には次のような方法が報告されています。①殻を割って播くことで発芽率が 20%に向上する。②種子にある珠孔をふさいでいる組織を取り除くと 11 日で発芽する。③2 日間流水に浸して播種すると発芽率が 50 ~ 60%に向上する。④播種前に殺菌剤に浸したり、ピートモスやパーライト、バミキュライトなどの無菌用土に播種することで発芽率が向上する。⑤ 30 °Cで発芽させると発芽率が 12 %になる。⑥播種後 1 週間だけ 3 5 °Cに置くことで発芽率がさらに向上する。以上のように、発芽率を向上させるためには、殻を割り、3 0 °Cくらい高めの温度で、発芽までの間、種子の腐敗を防ぐことが大切になります。これらの条件を考えると、もしかしたら、火事や焼き畑の後は発芽がよいかもしれません。発芽に時間がかかるとともに、発芽後の初期生育も非常に緩慢です。

海外では米国を中心に観賞用に鉢植えのものが売られていますが、近年、日本でもシルバーリーフの系統の種子や苗がシルバーノコギリヤシなどの名前で観賞用として流通し始めました。種子では発芽が難しいので、鉢植えの苗を購入するほうがよいでしょう。

針葉樹林や乾燥草原など、腐植の少ない土地に自生しており、肥沃な土壌を好まないかもしれません。培養土に堆肥を入れず、葉の色を見ながら、黄ばんできたら堆肥や油かすなどを追肥するほうがよいでしょう。

下層植生ですので日陰でも育ちますが、直射日光下でもよく育ちます。

4 ~ 7月に開花し、8 ~10 月に結実します。生産現場では、果実がオレンジ色に色づいた段階で、緑色からオレンジ色、黒色の果実まですべてを手作業で収穫しています。葉柄にノコギリのような棘があるので、大変な作業です。自分で育てる場合は完熟した果実から順次収穫するほうがよいでしょう。また、葉柄の棘は葉が出るたびにこまめに鋏で切るとよいでしょう。

人との関わりの歴史

ソウパルメットはアメリカインディアンのセミノール族にとって重要な食料でした。マヤ人はトニックウォーターとして飲んでいました。新大陸発見後の初期の入植者もドライフルーツをティーで飲んでいたようですが、好まれず定着しませんでした。

アメリカインディアンの呪医は、ソウパルメットの果実を消毒剤やトニックで、抗炎症剤や去痰剤、不妊治療薬として用いたといわれています。このほか民間療法として、200 年以上にわたって、膀胱炎や前立腺肥大による頻尿や夜尿症に処方されてきたほか、体重増加と体力増強効果から脱水症状の患者や大きな病気をした患者の体力回復に用いられたり、母乳の出をよくする、豊胸、月経不順改善、食欲増進、無力症改善などに利用されてきました。また加糖した種子油は不眠や咳、気管支炎に用いられました。

ソウパルメットSerenoa repens (W. Bartram) Smallの果実

H. W. フェルター(1865 – 1927)は、ソウパルメットについて、神経鎮静剤や去痰剤、消化管に穏やかに効く栄養トニックになるが、最も直接的な作用は生殖器にあらわれるとしています。

M. A.ワイナーらの『Herbs That Heal』(1994) によると、前立腺肥大はテストステロンがジヒドロテストステロンに変わることによる細胞増殖が原因であるとしています。ソウパルメットの乾燥果の抽出物中の β – シトステロールはテストステロンからジヒドロテストステロンへの変換を阻止するとされています。

P. M. バーンズらの調査結果(2002)は250万人がソウパルメットを利用していることを示しています。

このほか、完熟乾燥果からのアルコール抽出物がかつてブランデーの香りづけに用いられたこともありました。また、茎がパルプ原料に用いられたこともありますが、紙質は劣っていました。タンニン原料でもあり、コルクの代用にもなります。葉はシュロ葺きならぬソウパルメット葺き屋根の材料や、クラフトなどに用いられます。果実は家畜の飼料にはほとんど用いられませんが、野生動物にとっては貴重な食料源であり、ハンティングのときの餌などにも利用されています。

日本では近年、サプリメントやハーブティーなどでよく見かけるものの、植物にはなじみが少なく、植物園や観葉植物などでもほとんど見かけない、まだまだ珍しい存在です。今後、果実利用がさらに浸透・普及すれば、身近に育てて楽しむハーブ兼観葉植物としての普及が期待されます。

博士(農学)
木村正典 きむら・まさのり
ジャパンハーブソサエティー専務理事。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わるとともに、園芸の役割について研究。著書に『二十四節気の暮らしを味わう日本の伝統野菜』(GB)、『カルペパーハーブ事典』(監修)(パンローリング)、『ハーブの教科書』(草土出版)、『有機栽培もOK!プランター菜園のすべて』(NHK出版)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第43号 2018年3月