オーストラリアの精油事情
はじめに
オーストラリアのハーブ事情と題した連載の3回目は、オーストラリアの精油事情についてです。オーストラリアの精油にはどのようなものがあるのか、どのように受け入れられているのかなど、精油を取り巻く事情をご紹介したいと思います。
オーストラリアと精油
オーストラリアの精油を語る上で、避けては通れない植物があります。それは、フトモモ科の植物です。フトモモ科にはさまざまな植物が属しており、有名なところでは、ユーカリ・グロブルス、レモンユーカリをはじめとしたユーカリ属の植物や、ティートゥリー、カユプテ、ニアウリが属しているコバノブラシノキ属(メラルーカ属)の植物、レモンマートルを含むバックホウシア属やマートルを含むギンバイカ属などはすべてフトモモ科に属している植物です。フトモモ科は、大部分が亜熱帯・熱帯で生育することから、主に、オーストラリア、東南アジアや南米に多いとされています。意外なところでは、マヌカハニーで有名なマヌカもフトモモ科の植物です。日本でもマヌカの蜂蜜や精油は取り扱いがありますが、オーストラリアやニュージーランドでは、さらにマヌカのチンキもあり、主にハーバリストなどの専門家が活用しています。
ニューカマーなオーストラリアン精油
レモンマートルやユーカリ類は歴史も古く日本でもなじみがある精油ですが、ここ数十年で新しく仲間入りしているフトモモ科の精油もたくさんあります。ハニーマートル(Melaleuca teretifolia)、フラゴニア(Agonis fragrans)、 レモンティートゥリー(Leptospermum petersonii)、ロザリーナ(Melaleuca ericifolia)などです。
フラゴニアは 2001年に初めて西オーストラリア州で商用にプランテーション栽培されたとても新しい精油です。フラゴニアの作用は、ほかの多くのフトモモ科の精油と同様、抗菌作用があるのはもちろんですが、特徴的な働きとしては、女性ホルモンの調整や、メンタル面のバランスをとる働きなど、主にバランス調整能力に優れた面をもつ興味深い精油です。レモンティートゥリーは、オーストラリアでは古くから使用されてきた植物ですが、精油として生産され始めたのは1998年頃で、意外にも新顔の精油です。ロザリーナは、別名ラベンダー・ティートゥリーと呼ばれ、その名の通りティートゥリーを思わせる香りをもちますが、ティートゥリーと異なるのは、そのフローラルで柔らかな香りを伴っている点です。男性的な香りをもつ印象のティートゥリーに対して、ロザリーナは、女性版ティートゥリーとでも表現するとわかりやすいでしょうか。ハニーマートルは、私の日本のクライアントの方々にはこの4種の中では、一番人気のある香りです。「フトモモ科っぽさ」が苦手な方や、いつもの香りに飽きてきた方、新しい香りに挑戦したい方に、まずはオススメしたい精油です。
精油のブランド
オーストラリアでは、前回ハーブの生産事情の中でご紹介したような専門家専用のブランドが精油にも存在します。多くのブランドは、一般の人が手軽に手に入れられますが、アロマセラピストやハーバリストは品質の面から、専門家専用ブランドを使用することが多いです。このように紹介すると、アロマセラピーが広く一般に活用されているように聞こえるかもしれませんが、オーストラリアでは、日本よりアロマセラピーは市民権を得ていないように思います。これについては、精油の購入場所についてお話しすると少し状況をイメージしていただけるかもしれません。
精油の購入場所
日本のハーブ・アロマ取扱店は、精油をはじめとしたアロマセラピー商材を中心に構成されているお店が多く、アロマセラピーがいかに日本に浸透しているかよくわかります。対してオーストラリアでは、取り扱い状況が少し異なります。日本で、「アロマ・ハーブの取扱店は?」と聞くと何店舗もあげることができますが、オーストラリアでアロマを中心に扱う小売店をあげると、日本でも関西を中心に店舗をもつパーフェクトポーションくらいかもしれません。ただし、それ以外のお店で精油を扱っていないのかというとそうではなく、オーストラリアの場合は、サプリメントやヘルシーフードなどの購入方法と同様で、健康食品店や薬局で取り扱っています。使用頻度の高いユーカリやティートゥリーはスーパーマーケットでも販売しているほどで、かぜ対策や応急処置の一環として、これら一部の精油のみ活用度が高い傾向にあります。また、芳香器具に関しても日本と異なる部分があります。ディフューザー使用率は低く、昔ながらのオイルバーナーを使用している人が多い印象です。
オーストラリアの景色と精油
郊外をドライブすると、至るところにユーカリの木があり、オーストラリア「らしい」風景を演出しています。以前、本誌第 38号の「オーストラリアでのユーカリ活用法」でもご紹介した世界遺産ブルー・マウンテンズでは、青い森が広がっています。これは、ブルー・マウンテンズに自生している多種多様なユーカリの精油が揮発し、ブルーに染まる景色をつくり出しているからだといわれています。このように、オーストラリアの精油は、オーストラリア「らしさ」を形づくる上でなくてはならないものなのです。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第43号 2018年3月