ハーブといえばまずはシソ科か?(4)──シソ科のハーブを属別に
シソ科のハーブ(4)
ヨーロッパから新大陸に渡った人たちは、合衆国内を中心にアメリカ大陸の山野にハーブを探索し、あるいは先住民族が用いていた薬草などを調べ、ヨーロッパ産のハーブの代用ともいえる新顔のハーブを見出していった。今や新大陸生まれのハーブのいくつかは逆にヨーロッパや日本にも紹介されている。前回のシソ科のハーブ(1)~(3)に続き、所属する属を列記する。*印を付したものは日本にも分布する属である。属の名称のABC順に紹介しているが、やっとM、N、Oで始まる属が終わる。メディカルを含むハーブがいかにセリ科と並びシソ科の植物に多くを負っているかが実感されよう。
Monarda(ヤグルマハッカ属)
北アメリカに分布し、16種がある。Monarda dispera Sm(. タイマツバナ)や Monarda fistulosa L. (ヤグルマハッカ) などが観賞用に栽培される。タイマツバナは、フラグラント・ハーブ、オスウェガ・ベー・バウム、または学名を音読したモナルダ・ディディマなどといい、葉を香りづけに用いる。日本に帰化している。また、ヤグマハッカはカナダからアメリカ合衆国南西部、メキシコに分布し、ビー・バーム (bee balm) やホース・ベルガモット (horse bergamot) などと呼ばれ、葉はサラダやスパイスに利用される。アリゾナとニュー・メキシコ州、メキシコに分布するモナルダ・アウストロモンタナ( Monarda austromontana Epling、メキシカン・ベルガモット) もタイマツバナと同様の使途に用いられる。モナル ダ・キトリオドラ(Monarda citriodora Cerv. ex Lag.) はアメリカ合衆国南部とメキシコに産し、葉をスパイス、茶などの香りづけに用い、エッセンシャル・オイルを抽出する。本種をもタイマツバナと呼ぶことがあり、注意が必要である。
Monardella(カモジゴケ属)
北アメリカ西部に分布し、約30種が知られる。Monardella odoratissima Benth.(モナルデラ・オドラティッシマ)は全草または葉を茶などの香りづけに利用する。同属の Monardella macrantha A. Gray(カモジゴケ)など数種が観賞用に栽培されている。
Nepeta(イヌハッカ属)*
中部以北のアフリカ、ユーラシアに広く分布し、およそ200種がある。ネペタ・カタリア(Nepeta cataria L.)は和名をイヌハッカまたはチクマハッカ、英名をcatmint(キャトミント)またはcatni(eとも綴る)p(キャットニ(またはネ)ップ)などという。ヨーロッパ南部・東部からトルコ、シベリア西部から中央アジア、インド、中国、さらにキューバなどラテン・アメリカに分布し、日本などにも古くから渡来し、野生化している。全草をスパイスとして利用する。茶、特にフランスでは季節のスープやソースに愛用される。幻覚作用があり、特にネコにはマタタビやカノコソウ同様の作用を生じるため、ネコのミントを意味するcatmintやネコが噛むものを意味するcatnipの名が生まれた。Nepeta minor Mill.や Nepeta vulgaris Lam.は本種の異名とされる。
イヌハッカの変種 Nepeta cataria var.citriodora(Becker)Balb.は多量のシトロネロールを含み、食品や薬用や香料用にエッセンンシャ・オイル生産に利用される。Nepeta×faassenii Bergmans ex Stearn(ネペタ・ファッセニイ)は、ブルー・キャトミント(blue catmint)と呼ばれる。不稔の雑種でガーデン・ハーブとしてヨーロッパや中央アジアなどで栽培され、スパイスとして用いられる。
ネペタ・ラケモサ (Nepeta racemosa Lam.) はヨーロッパ、トルコ、イラン、旧ソ連、韓国に分布し、Mussin Catnip(ムシン・キャトニップ)の英名で知られる。高含量でゲラニオールとシトロネオールを含み、エッセンシャ・オイルの生産に利用される。また一部地域では全草をスパイスにする。なお、Nepeta mussinii Spreng.や Nepetareichenbachiana Fisch. &C.A.Mey.は本種の異名とされる。
ケイガイ Schizonepeta tenuifolia(Benth.)Briq.は、現在ではイヌハッカ属に分類されることがあり、その場合は Nepeta tenuifolia Benth.または Nepeta japonica Maxim.の学名が使われる。中国原産の1年草で、栽培もされるが野生品も利用される。強烈な香気を発する。乾燥した品を荊芥と称し、漢方では発汗、解熱、その他の薬剤として利用する。
Ocimum(メボウキ属)
アフリカを中心とする熱帯と亜熱帯を中心に65種がある。メディカル・ハーブとして重要な属のひとつである。
Ocimum basilicum L. 英名(common)basil。熱帯アフリカ(起原をマダガスカルとする説もある)に分布し、熱帯アメリカやインドなど、熱帯・亜熱帯圏で広く栽培されている。古代エジプトから香草として利用され、またハエ除け剤や嗅ぎタバコとしていたことが知られている。今日では主にスパイスあるいはエッセンシャル・オイルに利用する。切り刻んだ葉をキャセロール料理やソース、ピザやリキュール類の香りづけなどにするために毎年 100 トン近くが栽培されている。全草に佳香があり、神経衰弱性の頭痛に用いられる。日本では今はふつうバジルというが、古くはメボウキ(「目の箒」の意)と呼ばれていた。眼病の治療に利用されたことにちなむ。 Ocimum album L.、Ocimum menthiifolium Hochst. ex Benth.、なども本種と同種とされる。本種にはブッシュ・バジル (bush basil) などの英名をもつ亜種 Ocimum basilicum subsp. minimum(L.)Danert などの種内変異が知られている。
Ocimum americanum Jacq. はアメリカ産を意味する americanum を種の形容語とするが、多分アフリカなど旧世界を原産とする。英語ではレモン・バジルやホーリ(hoary)・バジルなどと呼ばれる。レモン様のフレバーをもち、スパイスとして特に海産料理の香りづけに用いられる。Ocimum × africanum Lour. は、Ocimum basilicumとOcimum americanumの雑種とされ、英名をスィ ート・バジル(sweet basil)またはレモン・バジル(lemon basil)というが、後者の名は Ocimum americanum をも指すので注意がいる。
学名としてOcimum×citriodorum Vis.を用いる見解もあるが、分類学上はOcimum×africanumが正しい。
日本に普通に栽培されるシソ(Perilla frutescens (L.)Britton)は、最初の『日本植物誌』を著したツュンベルクによってOcimum crispum Thunb.としてメボウキ属の種として記載された経緯があり、いまだにシソをメボウキ属の種として扱っている参考書があるので注意を要する。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第43号 2018年3月