2018.3.1

【生活習慣病ー高血糖】 高血糖と運動療法の見える化(動きたくなる心と体)

理学療法士

天川淑宏

私は、糖尿病・内分泌・代謝内科に所属する理学療法士として糖尿病の運動療法に携っています。その運動療法とは、スポーツを楽しむような運動とは少々異なり、治療のひとつとして日常生活での取り組みが欠かせません。そのため患者さんひとりひとりのライフスタイルを考慮し習慣化につながることを目的とした療養指導に努めています。

今回この執筆の依頼をいただき、ある患者さんのことを思い出しました。その方から「私は運動の後にハーブティー(カモミール)を飲んでいるので、運動が継続できているのよ」といわれたことがあります。私はカモミールのことをよく知らなかったので調べてみたら、ドイツでは「母なる薬草」と呼ばれるハーブの代表がカモミールであり、カマメロサイドという成分が、たんぱく質と糖が結びつく糖化を防ぐ効果があると書かれていました。その患者さんは糖尿病の合併症がなく、食事療法と運動療法のみで現在も良好な血糖コントロールを維持されています。

糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きに支障をきたし、高血糖を招き、糖尿病特有の3大合併症や心臓や脳などの機能へも悪影響を及ぼす慢性疾患です。その悪影響の根本は「糖が過剰に血液中に漂う」ことで血管のみならず体内のあらゆる組織に対して「糖化」という“体のサビ”のようなものを作り出してしまうことです。膵臓からのインスリン量に限りがあるため不規則な食事などで分泌が過剰になればインスリン分泌不全を招き、また、インスリンが働いても糖が利用できない体では、インスリン抵抗性としてともに高血糖を生じるのです。

いずれにせよインスリンが最も作用する場所は、体重の約半分である骨格筋(体を支え動かす筋肉)であり、その筋肉が糖を使わない状態となれば食事療法や薬物療法に取り組んでも限界があるのです。

筋肉は、コラーゲンとエラスチンのたんぱく質から成る筋膜で覆われています。筋膜は筋肉の動きをスムーズに導く働きを担っていますが、高血糖による筋膜糖化が生じると動きにくい筋肉にさせてしまいます。例えば下腿の“こむら返り”などは糖尿病の方には頻回に起こる症状で糖化も要因であると考えられます。この糖化やそもそも筋肉を動かさない不活動な状態は、インスリンの作用で筋肉へ糖を取り込む役割である筋肉内に存在する糖輸送担体(GLUT4)の不足を招きインスリン抵抗性を助長してしまいます。したがって、近年、主流の運動療法は、たくさん運動して糖をエネルギーとして使い血糖を下げるのみでなく、いかに筋肉の質を保ち良好な糖利用ができるようにするかが目的とされています。その筋肉は動くことで健全な状態を保ち動かなければ衰えます。糖尿病には慢性的な「運動不足」が、ひとつの引き金になります。では、運動不足とはどのような状態のことなのでしょうか。私はこの4文字を、「足」を使って体を「動」かしたり「運」んだりしない(「不」)ことといっています。たとえば、お家にリモコンはいくつあるでしょうか。中でも一番よく使うリモコンは何ですか?おそらくテレビのリモコンでしょう。それはどこに置いていますか。そう手元ですね。昔のテレビはスイッチを押したりチャンネルを回したりと、足を動かして体を運んでいました。でも今は動かなくともいい生活なのです。

糖尿病のリスクについて、こんな報告があります。それは「日常生活における1日の長時間坐位(30分以上)の回数と糖代謝状態との検討から坐位時間が長いと糖尿病リスクを高め、1時間増すごとに22%アップする」とのことです。糖尿病は、世界中で増加し特に糖尿病有病者4億2,200万人、有効な対策をしなければ2025年までに世界の糖尿病人口は7億人以上に増えると予測されています。この有効な対策とは、薬物の進歩だけではなく、オートメーション化された生活環境に対してヒトは動かないリスクにいかに気づくかなのでしょう。

運動不足は、筋肉の質を低下させてしまいますが、積極的に運動に取り組むことで筋肉の質を高めることもできます(運動不足=GLUT4減少vs運動充足=GLUT4増殖)。積極的な運動には、3つの運動要素があります。その1つは長時間だらだらと歩くような運動ではなく20分間程度を“しっかり歩く”有酸素運動です。有酸素運動は、医学的にもGLUT4増殖が認められています。その運動の代表がウォーキングで効果的な運動強度として3.2Mets~4.0Metsの110~124歩/分のステップリズムで少し歩幅を広げて行うことです。

2つめは、レジスタンス運動(筋抵抗運動)である筋力トレーニングです。この運動方法は数多くありますが、その代表は大筋群を同時に動かすスクワット運動です。スクワットは有名ですが、正しく行うことで膝や腰に負担をかけずに行え、特に大腿四頭筋や殿筋が効率よく働きます。これは貯金ならぬ「貯筋」でGLUT4の増殖場所を確保する筋肉トレーニングで有酸素運動と合わせて行うことで血糖コントロールが図れます。

3つめは、ハーブティーと同様に筋膜の糖化を防止と改善の効果があるストレッチング(上図)です。筋肉は骨格に見合った長さが最も動ける状態ですが、運動不足でも、労働でも、運動を行っても、いずれでも筋肉は縮みます。その縮んだ状態のままにしておくと高血糖いかんに関わらず動きにくい筋肉へと変化し糖の利用も低下します。そこで、ストレッチングを10~20秒間じっくりと行うと縮みを戻し、筋膜の線維芽細胞の活性化が糖化の改善にもなります。

このように糖尿病の予防や高血糖の改善を目的とした運動療法は、まずは日常生活での身体活動量の維持であり、そこに加えて計画し意識して行う運動へと取り組むことなのです。具体的には、活動量計(歩数計)などを運動時のみならず終日装着し、生活活動も合わせて6,000歩/日未満にならないようにすることです。

私は必ずマスターしてほしい運動を「ライフスタイル・ストレッチング」と称し、患者さんひとりひとりの生活活動や運動の取り組みに応じたプログラムを提供しています。そこには「運動は継続してこそ効果へつながる」秘訣があるからなのです。

理学療法士
天川淑宏 あまがわ・ としひろ
理学療法士、日本糖尿病療養指導士(東京医科大学八王子医療センター 糖尿病・内分泌・代謝内科)。臨床糖尿病支援ネットワーク評議委員。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第43号 2018年3月